2050年には、世界人口の60%が都市に住むようになる──。そんな予測があるほど、世界では都市化が進んでいます。その一方、いまの都市は生活費が高かったり環境に負荷をかけすぎていたりと、住みやすさやサステナビリティといった面で多くの課題があるのも事実です。
では、人にも環境にも優しい未来の都市はどんな姿をしているのでしょう? デンマークのリサーチ&デザイン研究所SPACE 10が2019年に発表したプロジェクトが、そのヒントを教えてくれます 。(SPACE 10のJournalより転載)
「Urban Village Project」はSPACE10がコペンハーゲンの建築設計事務所 EFFEKTアーキテクトと共同で描いたデザインヴィジョンです。このなかでは、未来の住宅や都市、近隣地域をどう設計し、建設し、シェアするかが描かれています。
「一緒に住む」の新しいかたち
Urban Village Projectの目的は、より低価格な家が住宅市場に参入できるようにすること、サステナブルかつ金銭的に無理のない生活を送りやすくすること、そして誰かと一緒に住むという生活をより充実したものにすることです。これを実現するために、プロジェクトチームは「Liveability(住みやすさ)」「Sustainability(持続可能性)」「Affordability(手の届きやすさ)」の3つに重点を置きました。
Liveability(住みやすさ)
「住みやすい環境」というのは、各個人特有のニーズに応え、日常生活に寄り添い、私たちが求めるサポートと社会生活を提供するものでなくてはなりません。Urban Village Projectは固く結ばれたコミュニティに身を置くことで得られるさまざまなメリットを引き出し、柔軟性を提供し、帰属意識を育むことで住みやすさを実現しようとしています。そのために、チームは次のような方法を考えました。
・都市の中心部に、世代を超えた共同生活のコミュニティをつくる。プライベートな生活空間と共有スペースを組み合わせることによって、人々が活気あるコミュニティの一員となり、社会的なライフスタイルを楽しめるようにします。
・ライフステージに柔軟に合わせられる住まいをつくる。Urban Village Projectが提案するのは一般的な一戸建てではなく、複数の部屋タイプをもつマンションです。この形態をとることで、単身者から4人家族、定年退職した夫婦、学生グループまで、あらゆる人に選択肢が生まれます。また、何かしらのライフイベントによって違うタイプの住まいが必要になった場合も、同じように住み替えを希望する人たちと部屋を交換することで同じコミュニティにとどまれるでしょう。
・施設やサービスを共有できるようにする。Urban Village Projectは共同ダイニングや共同保育所、都市型ガーデニング、フィットネス、食料品店、共有モビリティといった日常で必要になるさまざまなものへのアクセスを提供します。これはUrban Village Projectにただ付随する“特典”ではありません。あらゆる年齢やバックグラウンド、生活環境をもつ人たちの日常生活を支え、生き生きとしたコミュニティをつくるための必要要素なのです。
・指先ひとつで家を管理する住まいのデジタルプラットフォームをつくる。リアルの世界のコミュニティをさらに育み、サービスや施設とユーザーをつなぐツールを思い描いています。
Sustainability(持続可能性)
サステナブルな生活は人々の負担になるものではなく、生活の自然な一部であるべきです。Urban Village Projectは建築物のデザインや管理方法、ライフサイクルを見直すことにより、住民が何も考えなくても自然と持続可能な生活を送れるようにします。そのために、チームは次のような方法が考えました。
・雨水や再生可能エネルギーの利用、食の地産地消、地元でのゴミの堆肥化といった解決策を住まいと一体化させる。
・資源を共有する。Urban Village Projectでは、各家庭がそれぞれ同じアイテム(年に一度しか使わない電動ドリルなど)を購入し保管するのではなく、複数人でひとつのアイテムを共有することを提案しています。こうすることで生活費が削減され、地球にもやさしくなるでしょう。
・クロス・ラミネイティド・ティンバー(CLT)と呼ばれる木材を使用した住宅づくり。CLTはさまざまな面で鉄やコンクリートよりも優れた環境性能をもっています。
・モジュール式建築システムの採用。これは建築物のほぼすべての部品や材料を分解して交換し、建築物のライフスパンを通して再利用やリサイクルできるシステムです。廃棄物を最小限にすることによって地球環境に貢献できるだけでなく、住む人により多くの自由と柔軟性を提供することにもつながります。掃き出し窓やバルコニー、新しいキッチンなどの設置もはるかに手軽になり、住まいを生活に合わせてアレンジしやすくなるでしょう。
Affordability(手の届きやすさ)
真の意味で手ごろな価格の住宅を実現するためには、短期的な投資家の利益を排除し、既存の開発モデルに異議を唱える必要があります。このふたつの要素は、ほぼすべての大都市で住宅価格の高騰の原因となっているからです。こうした状況を変えるために、チームは次のような構想を思い描いています。
・標準化されたモジュール建築システムの採用。モジュールはプレハブ工法「注:建築物の部材をあらかじめ工場で製作し、建築現場で組み立てる工法」で大量生産され、フラットパック方式[注:部品を平箱に梱包して輸送する方法]で輸送されます。これが建築コストの削減に貢献するでしょう。
・長期的な投資をしてくれるパートナーと組む。年金基金、未来志向の企業や自治体などがこれにあたります。
・コミュニティ・ランド・トラスト(共同体土地信託)や協同組合にヒントを得た民主的な仕組みを用意する。こうすることで低価格な住宅が市場に参入でき、コミュニティの利益も確保できます。
・家賃、水道光熱費、維持管理費、共用施設の利用費など、生活に必要なものの費用をすべて含んだ月額サブスクリプション制度の導入。
・食品やメディア、保険、交通、レジャーなど日常生活で必要になる商品・サービスをよりお得に購入できる、柔軟性のある付加的なサブスクリプションの提供。
・不動産の“株式”を購入するオプションの提供。所有権を段階的に取得し、のちに不動産価値が上昇したら売却することもできます。これにより、初めての住宅購入のハードルとなっている金利や高額な頭金といった心配がなくなります。やがて不動産はコミュニティーの所有物となり、住民はその利益を得られるようになるでしょう。
なぜ必要なのか?
いま世界中の都市が急速な都市化や高齢化、気候変動、天然資源の不足といった複雑な問題に直面しています。その一方、私たちは世界的な住宅危機の真っ只中にもいます。手ごろな価格の住宅が、増える需要に対応できるほど多く建設されていないのです。そのため、私たちの都市はますます金銭的な負担が大きく持続可能性のない、社会的に不平等な場所になってきています。しかも、状況は悪くなるばかりです。いま世界では、毎週150万人が都市に移住しているといいます[編註:国連による2014年の試算]。つまり、あと10年足らずで推計16億人が、手ごろで住むに事足りる、安全な住宅にアクセスできなくなるのです。
これだけでも問題ですが、私たちはさらに別の課題にも直面しています。人々は以前よりも密集して住み、いままで以上に互いにつながりをもっていながらも、都市で感じる孤独や不安、ストレスが強くなっているのです。
Urban Village Projectによって、こうした課題の交差点で解決策が提供できるとチームは考えています。2030年までに都市化が必要とされている地域の約40%はまだ手が加えられていない状態です。これは非常に難しい課題ではありますが、一方でこうした地域には未来の都市がどんな姿でどんな機能をもっているかを考えるための真っ白なキャンパスが広がっているのです。
デンマークのコペンハーゲンに拠点を置くリサーチ&デザイン研究所。人類と地球に影響を与えるであろう大きな社会変化に対する革新的な解決策を研究・デザインするという目的のもと、2015年に設立された。 常に自分たちよりも賢い人たちと一緒に仕事をすることを大切にしており、世界中の先進的な専門家やクリエイターのネットワークと連携してプロジェクトに取り組んでいるほか、研究結果やアイデアはすべて公開されている。また外部の人々と交流し、想像力を刺激し、視点を多様化するために、展示や講演会、ディナー、上映会などを定期的に開催している。 https://space10.com