デンマークのコペンハーゲンに拠点を置くリサーチ&デザイン研究所。人類と地球に影響を与えるであろう大きな社会変化に対する革新的な解決策を研究・デザインするという目的のもと、2015年に設立された。

常に自分たちよりも賢い人たちと一緒に仕事をすることを大切にしており、世界中の先進的な専門家やクリエイターのネットワークと連携してプロジェクトに取り組んでいるほか、研究結果やアイデアはすべて公開されている。また外部の人々と交流し、想像力を刺激し、視点を多様化するために、展示や講演会、ディナー、上映会などを定期的に開催している。

SPACE10のSolarVilleをご紹介します。これは人々がクリーンエネルギーにアクセスしやすいようにエネルギーシステムを再構築した、私たちのプレイフル(遊び心のある)リサーチプロジェクトです。

SolarVilleは、野心的でありながら完全に実現可能な未来像です。具体的には、生活のためのエネルギーを、太陽エネルギーのみでまかなう街のミニチュアモデル。50分の1の縮尺で作られたこの街では、ソーラーパネルで再生可能エネルギーを自ら発電する家庭もあれば、ブロックチェーン技術を使って余剰電力を生産者から直接自動購入する家庭もあります。その結果、自給自足のコミュニティ主導型マイクログリッドのモデルができあがり、住民はそれぞれのニーズに応じて再生可能で安価なエネルギーを交換し合うことができるのです。

私たちは、このプロジェクトの一貫としてSolarVilleの研究成果をまとめた報告書「A Brighter Tomorrow」を発表しました。同報告書は、気候変動の影響を緩和するために、太陽光発電が現実的で持続可能なエネルギー源になることを説いています。

パートナー

・SPACE10
Blockchain Labs for Open Collaboration (BLOC)
WeMoveIdeas India
Blocktech
Temporal
SachsNottveit

Photo — Irina Boersma

ビジョン

世界ではまだ約20億人が電気のほとんどない状態、8億6千万人がまったく電気のない状態で生活しています。エネルギーの貧困にあえぐ人々に電気を供給することは、現在の中央集権的なエネルギーネットワークでは膨大な時間とお金が必要なため、ほぼ実現不可能とされています。SolarVilleは、ソーラーパネル、マイクログリッド、ブロックチェーンなどの技術を組み合わせることで、オフグリッドシステムに新たな可能性をもたらし、従来の電力網から脱却することを目的としています。

インスタレーション

建築事務所SachsNottveitが設計したSolarVilleは、木造の住宅が並ぶミニチュアの村のような形をしています。一部の木造住宅の屋根にはソーラーパネルが設置され、上空から降り注ぐ人工の太陽光を取り込んでいます。観覧者は、コミュニティ内で取引される電力をリアルタイムに表示する模型に埋め込まれた小さなLEDライトで、エネルギーの流れの全体像を確認することができます。また、テーブルの横のハッチにはBLOCの基盤技術であるブロックチェーンが表示され、観覧者の好奇心を満たしてくれます。

これにより、このモデルを通じてブロックチェーンで取引されるエネルギーのネットワークが機能している様子を観察したり、人工太陽がネットワークに与える影響をリアルタイムで確認したりすることができます。

Photo — Irina Boersma

SolarVilleの仕組み

私たちは、SolarVilleの実用的なプロトタイプを作るために以下のような手順を踏んでいます。そしてこれらは理論的に現実の世界でも再現することが可能なのです。

ステップ1:太陽の光を取り入れる

まずは太陽の光です。幸運なことに太陽の光は無料で、人類が利用できるもっとも豊富なエネルギー源でもあります。地球が1週間で受け取る太陽エネルギーは、地球上で回収可能な石油、ガス、石炭の全エネルギー量を合わせたものよりも多いのです。

ステップ2:ソーラーパネルの設置

次に、太陽からのエネルギーを取り込むためのソーラーパネルを設置します。初期投資はかかりますが、インバーターと一緒に設置すれば、無料で再生可能なエネルギーが供給されます。太陽光発電はすでに世界のいくつかの地域で価格競争が激化しており、今後も価格の下落が予想されます。

Photo — Nikolaj Rhode

ステップ3:ストレージシステムの導入

太陽はいつも輝いているわけではなく、風もいつも吹いているわけではありません。ですから、必要なときに確実に電力を供給するために、再生可能エネルギーを貯蔵する必要があります。100年以上にわたって停滞していた電池の進化が急速に進み、より優れた蓄電性能を持つ安価な電池の実用化が可能になりました。このように電池の性能向上が期待される一方で、他の技術によるエネルギー貯蔵のブレイクスルーも顕著に進んでいます。たとえば、太陽エネルギーを水素に変換することも、近い将来に実現可能な選択肢のひとつになることでしょう。

ステップ4:エネルギーの分散

ステップ4は、地域の人々とエネルギーを直接つないで配電することです。昔ながらの電線を使えば近所の家庭を簡単につなぐことができ、独立したマイクログリッドを作ることができます。

Photo — Irina Boersma

ステップ5:ブロックチェーン技術でシステムを規制

ブロックチェーン技術は、安全で分散型の取引プラットフォームを構築するための第5のステップとなる可能性があります。そしてエネルギーの取引を記録し、人々が個人間で直接取引することを可能にします。分散型台帳技術は、エネルギーの流れを記録・管理し、取引を検証・記録し、一定の条件を満たすと自動的に取引が実行されるようになっています。これによって取引コストが削減されるだけでなく透明性と安全性が向上し、システムに対する参入障壁が低くなります。仲介者を排除することは真の分散型エネルギーシステムの実現に向けた最後のステップであり、そうすることで安価でクリーンなエネルギーを人々に提供できる可能性が高まるのです。

ステップ6:オフグリッドのエネルギーシステムを構築

これらのステップはすべて今日から実行可能です。SolarVilleはそれを実証しています。最大のセールスポイントは次の通り。地域からエネルギーを買えば、そのお金は地域に残ります。これこそ電力供給のもっとも純粋な形なのです。

Photo —Irina Boersma
Photo —Irina Boersma
Photo —Irina Boersma

では、なぜSolarVilleは実現されていないのでしょう?

もし、世界のほとんどの地域で太陽光発電が他のどの新電力よりも安いのであれば、なぜ私たちの電力はすべて太陽光発電で賄われていないのでしょうか?

・石炭やガスによる発電所はすでに多く存在します。これらの発電所は、経営者に十分な利益が入ってくる限りエネルギーを生産し続けるでしょう。

・多くの国では総電力需要が減少しており、既存の発電所で電力需要を賄える場合には太陽光発電への投資が難しくなっています。

・太陽光発電のストレージはまだ高価です。ストレージがなければ太陽光発電は安定供給ができず、信頼性が低くなります。24時間電力を確保するためには蓄電装置のコストを考慮しなければなりません。とくに晴天が続く国では、夜間電力を蓄電装置でまかなうよりも、従来の電力を使ったほうがコストを半分に抑えられるので、太陽光発電を普及させるのは難しいでしょう。

明るい明日を

上記のような障害があっても、太陽光発電の未来は明るいと言えます。太陽エネルギーは使い切りの燃料ではないし、技術開発も進んでいます。そのため、太陽光発電の電気料金は下がっていくと期待されています。その結果、クリーンエネルギーがより安価に、より身近になることは間違いないでしょう。

このギャラリーは、建築、デザイン、テクノロジーの分野において、プロジェクトを展示し、対話を生み出し、アイデアを交換するための空間。
Photo — Hampus Berndtson

コペンハーゲンのSPACE10本社で行われている、SolarVilleのインスタレーションをチェックしてみてください。5月3日までSPACE10ギャラリーで展示されています。※現在は終了しています