膨れ上がる都市を皆のための場所にするために、建築家やデザイナーにできることとはなんでしょう? そのヒントを探るべく、デンマークのリサーチ&デザイン研究所 SPACE10は、建築と社会変革を専門とする研究グループUrban-Think Tank(U-TT)の共同創業者に話を聞きました。


都市は多く住民のニーズを満たせていません。それでも都市の人口は増え続けるばかりです。すでに経済成長の限界に達している可能性があるにもかかわらず、2030年までに30億人が非公式居住区[訳注:政府の管理や規制の外にあったり、違法に立てられたりしていて、国による保護が与えられていない居住区のこと]で暮らすことになると言われています。首都が膨らみ続け、小都市も急速に拡大を続けるなか、私たちはいかにして都市を公平な方法で進化さられるのでしょうか? そして、都市や社会の重要な問題に取り組むために、デザインはどう変化できるでしょうか?

SPACE10は非公式居住区の環境に対する革新的なアプローチを探る研究の一環として、学際的な研究グループUrban-Think Tank(U-TT)の共同創業者であるルフレッド・ブリレンバーグを招き、集団的な場づくりと移動する人々について話を聞きました。

Urban-Think Tank(U-TT)は、1998年にベネズエラのカラカスで創設されました。その使命はデザインを通して不平等や不公正に立ち向かうことであり、コロンビアの都市バランキージャの文化施設「Escuela Distrital de Arte」を始めとする社会インフラの建設のほか、急勾配のファベーラ(スラム街)に取り壊しを最小限に抑えて建設された交通ソリューション、書籍、映画、展覧会の制作などを手がけています。

ブリレンバーグは建築家の役割について「トップダウンとボトムアップのギャップを埋める」ことができ、都市や住民と一緒にオルタナティブ・アーバニズムに向けて協業していける可能性を秘めていると語ります。

コロンビアの都市バランキージャの文化施設「Escuela Distrital de Arte」。
Photo — Gregory Alonso

──今日における「ラディカル・アーバニズム」とはどのようなものなのでしょうか? どう実践していけばよいのでしょう?

ラディカル・アーバニズムとはシフトであり、物事をそのままにしておくことでもあります。また、社会の現実と関わりながらユートピアの夢を目指して進んでくという、理想主義と批評性のミックスでもあります。変化というのは現実的であるべきなのです。

ラディカルなプロジェクトは必ずしもデザインを解決策として見ているわけではありません。私たちの生活のあり方に関する前提や、それを支えるために必要な環境を根本的に再構築するものとして見ているのです。ラディカル・アーバニズムのラディカルさ(革新性)は、視点を変えることにあります。スローフードになぞらえて言うならば「スローシティ」でしょう。そうして視点を変え、新しい実験方法を考えるのです。

──よりゆっくりと、より静観的に動くことに革新性があるのですね。

そうです。昔の都市もそうしてつくられていました。

未来の都市は現在の都市なのだと私は思うのです。

未来とは過去や現在でもありますよね。もし私たちが過去を意識し、過去のモデルを知り、それらがどこで失敗したかを理解すれば、再評価にも意味が出てくると思いますし、それをもとに今から小さな変化を生み出すことで未来について考えることもできます。例えば高速道路をつくりかえ、木を増やし、「Farm to Table(農場から食卓へ)」を都市で実践したりといったことです。こうした変化はすでに起きていますし、これまでも起こっていました。ただ、もっとラディカルに、勢いをつけて起こしていかなければならないのです。

本来、都市はゆっくりと進むべきであると私は考えています。時間をかけて自らを築き上げていくべきなのです。しかし、我々は今あまりに危機的な状況に置かれており、勢いを増していくほかありません。ただし、そうした勢いは自由を促進するためのものです。よくあるヒッピー文化の焼き直しではありません。私たちは、イノベーションは自由のなかで生まれるものだと心から信じています。

イノベーションや革新的な空間を創造するためには、まず自由を認める必要があるということを忘れないでください。

(左)「Escuela Distrital de Arte」は、地域住民が音楽やダンス、彫刻、詩、演劇などを学べる芸術と伝統文化の学校だ。/(右)地元コミュニティの人々がバランキージャのカーニバルのためのフロート(山車)や衣装を作ったり、芸術的なパフォーマンスの準備をしたりするときにも使われる。
Photo — Are Carlsen

──あなたの作品からは、言葉や言語へのこだわりが見て取れます。危機が交錯するいま、自分の発言が何を意味するのかを問うことは重要ですよね。

いまの私たちは世界中にある都市を表現する言葉を持ち合わせていません。ニューヨークは単に「碁盤の目」と表現することもできるでしょう。では、ラゴスや香港はどうでしょう? 都市は多様な都市生活のあり方がぶつかり合い、変容する複雑な空間なのです。西洋的な見方から脱却してみましょう。そうすれば、都市で何が起こっているかはわからないし、説明もできないということがわかるでしょう。

──もしかしたら、それは英語という言語の限界なのかもしれません。地元の人は自分たちの都市を表現する言葉をもっているかもしれませんよね。

そうですね。だからこそ、スラングが重視されるようになったのです。言葉を組み合わせてみたらどうか? 新しい言葉を生み出してみたらどうか? 都市で起こっていることをよりうまく表現するためのツールボックスを発明してみてはどうか? 建築家の役割を、ただ「純粋な」デザインをする人ではなく、個人やコミュニティの主体性をサポートする人として見ることはできないか? そうした個人やコミュニティの日常生活が、進化する建築環境をかたちづくっていくのですから。

──あなたは著作で「thinking-doing(考える-実行する)」という言葉を使っていますよね。クリエイティブ・リサーチ・スタジオのIAMを共同創業したアンドレス・コルメナーレスも使っている言葉ですが、「thinking(考える)」「doing(実行する)」をひとつにした単語は英語にはないのかもしれません。いちばん近いのは理論と実行をひとつにした「praxis」という単語ですが、英語としては複雑な単語ですよね。

世界の重要なデザイナーや建築家のほとんどは、本を書いたり理論を生み出したりする「thinking(考える)」と実際にものをつくる「doing(実行する)」の両方を並行して行なってきました。アルヴァ・アールトからアルネ・ヤコブセンまで、彼らは書いては実行し、考えては実行したのです。彼らが生むプロダクトはその著作を明確に反映したものであり、その逆もまた然りと言えます。「現代の生活の現実を受け入れるということは、都市の中で都市を通して仕事をするということである」というモダニズムの根底にある信念を受け入れられれば、建築や都市主義は形式や美学を超え、社会構造を破壊するためのものになるでしょう。

「Escuela Distrital de Arte」は伝統文様と行動様式をベースにデザインされ、地元の材料を使って地元で製作された。
Photo — Gregory Alonso

──あなたは脱構築ではなく再構築、そして歴史と未来の調和に興味をおもちですよね。これらについてのあなたの見解をお聞かせください。

先ほどお話しした「考え、実行する」という考え方は、私たちが「Parangolé(パランゴレ)」と呼んでいる「動く人々、動く都市」という大きなコンセプトの一部です。

美しくて楽しい、重層的な都市をつくれないだろうか?古い都市の上に新しい都市を作れないだろうか?これがパランゴレです。

Urban-Think Tankは絶対に取り壊しをしません。古い都市の上に”鍼”を打ち、橋でつなぎ、らせん状にスロープをつくってアクセシビリティを高めたレイヤー型の都市をつくるのです。そうして新しいものと古いものの間に対話を生み出します。新旧の間にあるこうした空間こそが、都市のあらゆる生命を生み出すクリエイティブな空間となるのです。

デザイナーや建築家である私たちは文化の担い手です。私たちは学際的な思考をするのが得意で、広く浅く知識を身に着けています。もし私たちが都市の中にいるさまざまな文化の担い手たちをまとめ、文化のステイトメントをより強く主張できれば、私たちの仕事が「のろし」となり、人々の目印となり、よりよい再構築を生める場所となるでしょう。

新しいものと古いものの対話。
Photo — Gregory Alonso
U-TTは古いタバコ工場を保存し、中庭のあるオープンなコンクリートの建物を増築することで両者をつなげました。
Photo — Gregory Alonso

──「プレファレンシャル・シティ・メイキング」のコンセプトと、開発中のデジタルツールについて教えてください。

私たちは非公式居住区を改善しなくてはならないと考えました。そのためには、いかにして人々を動かし、いかにして彼らを彼らが所有する共有地に関する再交渉のプロセスに参加させるかを理解しなくてはなりませんでした。

これはある種のランド・トラスト(土地信託)だと考えてください。そして、そうした既存のランド・トラストを可視化し、ゲームのように提示するのです。どこに引っ越したいか?新しい家がいいか?2階建てにできないか?もう少し薄くできないか?少しでもお金を払えないか?私たちはこうした情報をプレファレンシャル・シティ・メーカーに入力しました。こうしたデータ収集の目的は、合意を生むことにあります。そしてプレファレンシャル・シティ・メイキング用のデジタルツールは、交渉に必要な誰が何にお金を払うのか。どのような形状の家がいいのか。2階建てなのか、1階建てなのか、などです。これはデザインではなく、デザインのためのツールです。何をするかについての合意形成なのです。そこから、誰が最初に動き出したいかを問うていきます。これを一軒ずつやっていくのです。

私はこの8年にわたり南アフリカのカエリチャでこの活動を続けていますが、これは驚くべきプロセスです。この活動から生まれたのは平和な地域です。なぜなら、人々は自分たちが何を作っているのかを理解し、一緒に行動したからです。

これはひとえに、「どうすれば再び都市で暮らす方法をみんなで見つけられるか」というプロセスなのです。

──プレファレンシャル・シティ・メイキングとあなたが掲げる「都市鍼灸」の方法論はどう重なっているのでしょうか?

都市を丸ごと改造することはできません。大きすぎるからです。では、どうすればいいのか? 地図上で特に何かを必要としている地域を特定することはできますよね。そして、健康やモビリティ、公園、教育、文化のように、社会的なインパクトを与えるインフラストラクチャがあります。これは鍼のようなものです。一方で、住宅というもともとある土台もあります。こうした土台を新しい土台と繋ぎ合わせ、そこに文化的インパクトをもたらす新しい鍼をさすことで、新しい都市ができあがるのです。

部屋や空間は、必要に応じて変えられるよう設計されている。
Photo — Gregory Alonso

──どうすれば避難民を都市に受け入れ、ケアできるようになるでしょう? 事が起きてから対応を迫られる都市も多いですが、もっと積極的に対応する手段はないものでしょうか?

グローバルパスポートを作ったり、人々が自由に移動したりする方法を見つけたりする必要があるでしょう。都市や大都市がある個人にとっては排他的で、それ以外の人にとってはそうではないなどということがあってよいものでしょうか? 私たちはみな、都市を利用する権利があるのです。私たちはいま、かつてないほど激しい対立のなかにいます。また同時に、独裁政治へと向かう動きも見られます。そのような状況下で、移住を怖がることがありますか? すでに人々は動き出しています。これからそうした人はどんどん増えていくでしょう。ヨーロッパの周りに壁を作ることはできません。私の祖国であるベネズエラは、世界でも特に深刻な難民問題を抱えています。ロシアによるウクライナ侵攻の問題もあるいま、さらに多くの人々が移動しています。壁は解決策にはなりません。違うものが必要なのです。もっと人間的で、もっと共感に根ざした何かがです。

──今日におけるデザイナーの役割とはなんだと思いますか?

私は、デザイナーや建築家がモデレーターになることが必要だと考えています。より繊細に、より裏方として、さまざまなパーツの接着剤のような役割を果たす必要があるのです。建築家は他の人が見ていないものを見る能力があります。なぜなら、その目は空間を理解するために訓練されているからです。

建築家は他人の要望やニーズにもっと耳を傾けなくてはなりません。

──いまデザインで起きている新たなパラダイムシフトをどう定義しますか?

私たちは、今日の都市を誰がつくっているのかを知りません。世界のほとんどはルールも規制もなく、非公式に建設されています。そこには建築家も関与していません。そのような状況において、何をさして「デザインムーブメント」と呼べるのでしょうか。私たちは、自分たちの価値観をどこに置くかを考えなくてはなりません。私たちは何を重視するのか? 役員室であれ、政治のトップであれ、意思決定の力をもつ人々が学際的な思考をもつチームをもつという配慮をほんとうにしたのかを確認するにはどうすればいいのか?

私たちはもっと内省し、知識を共有しながら前進する必要があります。そして、権力構造が無視しているギャップに介入する新たな戦術を見つけなくてはなりません。そうすることで、集合的な都市の未来に向けて人々に力を与え、変革を起こし、立ち向かい、実現可能なビジョンを明確にする能力が建築家やデザイナーにはあるのだと再確認できるでしょう。


デンマークのコペンハーゲンに拠点を置くリサーチ&デザイン研究所。人類と地球に影響を与えるであろう大きな社会変化に対する革新的な解決策を研究・デザインするという目的のもと、2015年に設立された。
常に自分たちよりも賢い人たちと一緒に仕事をすることを大切にしており、世界中の先進的な専門家やクリエイターのネットワークと連携してプロジェクトに取り組んでいるほか、研究結果やアイデアはすべて公開されている。また外部の人々と交流し、想像力を刺激し、視点を多様化するために、展示や講演会、ディナー、上映会などを定期的に開催している。 
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