デンマーク在住のRikkaさんがお送りする北欧の便りシリーズ。

人生100年時代と言われ生涯学習など注目される昨今ですが、デンマークには古くからある「フォルケホイスコーレ」という成人教育システムがあります。

デンマーク独自といっても、スカンジナヴィアやフィンランド、アメリカ、最近は日本でも「フォルケホイスコーレ」の形態にならった学校が創設されています。日本から留学される方も多くなっているようで知名度も増していますので、ご存じの方もいらっしゃるかもしれません。

私自身この教育システムについては、デンマークを語るうえで欠かせない!と思っておりますので前半と後半にわけてたっぷりとご紹介させていただきます。前半の今回は、「フォルケホイスコーレ」とは何なのか?を主にご紹介したいと思います。

フォルケホイスコーレ(FOLKEHØJSKOLE)とは何か?

直訳すると、デンマーク語でフォルケは「人々の」、ホイスコーレは「ハイスクール」です。つまり、高校?という風にも思われますが、実際は18歳(正確には17歳半)以上、年齢上限なしの寮制の成人教育施設です。一部制限はあるもののデンマーク国民なら18歳以上になれば誰でも通うことができる学校です。さらにEU内外の外国人でも可能となっており、日本人でも通うことが可能なのです!

ホイスコーレという名前がついている別なタイプの学校もありますが、ここでは、フォルケホイスコーレをホイスコーレとしてご紹介したいと思います。

フォルケホイスコーレ(以下ホイスコーレ)は、現在およそ70校がデンマーク国内に存在しており、それぞれが多様な校風を持っています。大きく分けると、芸術系(手工芸・演劇・音楽など)、文化系(比較文化・ジャーナリズム・哲学・キリスト教系など)、体育系です。そのほかに、高齢者向け、若年者向け(16-19歳向け)のものがあります。入学を希望する人は、このような様々な種類の学校の中から、自分の興味のある分野に沿った学校に申請をすることが可能となっています。そして、ほぼ半年間毎で区切られたコースの期間中、同じ学生同士で寮での共同生活を送りながら学びます。学生によっては1年間滞在する場合もあります。

様々なタイプのホイスコーレがありますが、必須科目として半分ほどがホイスコーレ特有の一般授業となっています。例えばスポーツ系のホイスコーレでも滞在中ずっとスポーツのみを行うのではなく、ディベート科目やその他の科目を選択しなければならないなど、好きな事のみを四六時中行えるというわけではありません。また、共同生活なので、共有スペースの掃除や毎日の皿洗いなども当番を決めて自分たちで行います。

また、朝に全体の集会があり、そこではホイスコーレの歌集を利用した歌を全員で歌うという慣習があります。

2020年最新版出たばかりのホイスコーレ歌集。デンマーク語のほかスウェーデン語やノルウェー語、英語、ドイツ語などの曲も入っている。


ホイスコーレは、通常のデンマークの学校、つまり小中・高校、大学といった教育システムの一環の中にあるわけではないので、通うも通わないも自由です。そして、学費が無料というこのデンマークで、一部補助はあるものの実質学費は自己負担です。また、特徴の一つとして、入学審査や在学中の試験は存在せず、卒業しても資格が得られるわけではない、という点があります。

資格も得られず、お金もかかる。そんな学校、通う意味があるのか?と思われる方も多いと思います。私もホイスコーレの学生であった時期がありますが、日本のようにまだ受験があったり資格取得のために学校に通う社会から来た私には、目からうろこの学校でした。

なぜデンマークでホイスコーレが出来たのか?

ホイスコーレは何を学ぶところなのか、行って何をするのかというところをご説明するには、ホイスコーレが出来た理由に触れるのが一番かもしれません。なぜホイスコーレが存在するのかというと、歴史的背景として19世紀に起きたドイツとの戦争による国土や資源の大きな損失があげられます。

(以下、私の意訳も入っていますので、きちんとした歴史についてお知りになりたい方は他の文献を参考になさって下さい。)

当時はデンマークの公用語はドイツ語。知識階級はドイツ語を使うのが主流だったそうです。母国語のデンマーク語は農民など、いわゆる教育を受けられない国民のものであったそうです。

そんな状況の中、ホイスコーレの父としてデンマーク国内でよく知られている、グルントヴィという人物が立ち上がりました。グルントヴィは哲学者、牧師、詩人など、様々な肩書を持ち、「外へ外へと国土を広げていくのではなく、国内の力をもっとつけるべきだ」、つまり「自分の国の言葉(文化)をないがしろにせず、一般人(農民)がもっと教育を受け生きる力をつけるべきだ」という考えを持ち、農閑期に若い農民が教育を受けられるような場所を作ろうとしたのです。これがホイスコーレの設立理念の基となっていきます。(この人自身のプロフィールも面白いのでお時間のある方は是非見てみてください)

そして、もう一人のホイスコーレの父と言われる、クリステン・コルという人物が尽力し、19世紀半ばに初めてのホイスコーレを創立したのです。

ちなみに、当時からのホイスコーレの中には、現在まで続いている歴史の長いところものもあります。つまり、そういった背景があったからこそ、自分自身の内面を肥やす・成長させるために存在する学校として現在も続いているのです。

体育館での授業の一コマ。

ホイスコーレでは何をするのか?

歴史の部分でお話しした設立理念がホイスコーレの特徴として反映されています。ホイスコーレでは、生徒がお互いの意見交換により自分の知識や見解を深めます。朝の朝会で歌を一緒に歌うことで連帯感も生まれるでしょう。また、自分の興味の範疇だけでなく様々なことを学ぶことで自分の視野を広げることもできます。グルントヴィも生きた対話の中から学びを得ることが重要だと説いています。

学校なので教師は存在していますが、日本のような知識を伝える人といった役割ではなく、会議の進行や統制をするようなポジションであり、教師自身が生徒との対話を通して学ぶことも大いにあります。教師も先生然としているのではなく、若い年齢だとちょっと教師なのか生徒なのか分からない時もあります。

通う人々の年齢も様々で、平たく言うと農民に学を付けるために始まったホイスコーレですが、現在はいわゆるギャップイヤーを利用して入学する生徒が多いようです。自分が何をしたいのか、大学で学ぼうと思っていることは何だろう?ということを探るためにホイスコーレに来る生徒に多く会います。また、ホイスコーレビザというものがあるので、EU圏外からの学生さんもそのビザで入学できます。日本からだと社会人経験のある方がワーキングホリデービザを利用して入学することもあります!

ホイスコーレ協会によるとデンマーク人の18〜25歳くらいが多いです。しかしながら私が会った中には30代や50代のクラスメートもいました。スポーツ系の学校は10代20代前半の若者が多く、文化系や芸術系の場所だともっと幅広い年齢層だったりと学校の特徴にもよるかもしれません。

授業後の自習の一コマ。将棋をしている学生もいる。

また、ホイスコーレの中にはショートコースとして夏季休暇期間中に週単位で特別授業や家族向けのコースを設けているところもあります。そういったところでは年齢の制限はもっと幅広く、気軽に旅行に行く感覚で何かを学べるので、人気のプランです。(余談ですが、シングルマザー・ファザーの出会いの場所でもあったりするようです。)

学校専属のコックさんもいて毎日美味しい料理を作ってくれる。学校によっては生徒が授業で使える調理室もある。

次回は、私が在学中の体験談や、ホイスコーレに深く接するにつれて考えたことなどについてご紹介したいと思います。

ABOUTこの記事をかいた人

Rikka

東京都出身。看護師・保健師。都内総合病院に勤務していたが、2010年、夫の仕事の関係で英語も話せないのにデンマークに移住。まずは環境に慣れるためとデンマーク独自の学校システムであるフォルケホイスコーレにて学生生活をスタートする。現在首都コペンハーゲンのあるZealand島の片田舎在住。Zealand内の総合病院にて看護師勤務を経験し、地域医療/福祉に目覚め、現在看護業務をしつつ、フォルケホイスコーレの非常勤スタッフも務める。 そのほか、北欧における難民援助調査の取材コーディネーション、美術館の所蔵品に関する翻訳、その他現地研修通訳などの経験あり。個人的な趣味は裁縫・美術鑑賞・古着収集など。カタツムリと猫が大好き。