今回からデンマークについて連載をさせていただきます、Rikkaと申します。2010年からデンマーク人の夫の仕事の関係でデンマークに引越しましたが、引越した先は森の中。今まで住んでいた環境と真逆の場所に住むことになり最初戸惑いましたが、今はここから離れたくないほど気に入っています。

こちらに来た当初デンマークの文化や生活を知るためにデンマーク独自の学校システムであるフォルケホイスコーレに1年間通っていました。非常勤ではありますが、ホイスコーレのスタッフも兼任しております。ホイスコーレについてのお話もいずれさせていただきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。

デンマークの近年の食文化の変化と自然の深い関係

厳しい気候のせいだと思いますが、日本に比べて食材が豊富だとはいえない部分があります。長い冬のせいもあって、保存食が多いです。しかし、森に生活してみて実に色々な「食べれる物」があるのに気づきます。

コペンハーゲンにあるレストランNOMA(ノーマ)を代表とするNew Nordic Cuisineという動きでは、現地にある材料を最大限利用することがコンセプトの一つになっているそうです。ちなみにNOMAはNordisk Mad(平たく言うと北欧飯という意味のデンマーク語)からきており、日本にも出張店が期間限定でオープンしたことがあります。基本的にデンマークや北欧の料理がベースとなっているのですが、アリをご飯に加えたり、アレンジなど、その様々な調理法や食材選びは本当に面白いです。食べていても最高に楽しいです。現在は日本やメキシコを回ったNOMAがオープンしたのとは別の場所で新生NOMAをオープンしています。ここ出身のシェフが新しく自分のレストランをオープンしたりと広がりがあります。世界中からもこの精神を学ぼうと若手のシェフが集まっているようでした。日本出店の際の様子は映像化もされていますのでご興味のある方は是非ご覧になるといいと思います。興味深いです。

その地産地消のコンセプトが大変生かされたイベント、Vild Mad(Wild Food)フェスティバルでは森の中で一流シェフ(ミシュラン三ツ星レストランのシェフやNOMAの総料理長もいてびっくりした。)が森でとれる野草や木の実、動物(ジビエってやつでしょうか)を使った料理を教えてくれます。自分で今朝捕れたばかりの鹿から肉を削いで作るタルタルは何とも感慨深いものがありました。

VilMadフェスティバル、近隣のバーやカフェが出店しているので
野草を使ったカクテルや軽食を楽しめる。
VilMadフェスティバル、事前登録でインストラクターが付いて
周辺の食べられる野草を使った簡単な料理や種類を教えてくれる。サンプルは味見も可。

また、毎年春になるとワイルドガーリック、日本でいうギョウジャニンニクに近い野草が森で大量にとれ、レストランのシェフも摘みに来ます。先ほどご紹介したブナの新葉もサラダにして食べることができます。アンデルセンの童話に、白鳥になった兄弟の王子を助けるためにイラクサの服を編まなくてはいけない話があるのですが、そのイラクサ、森にも大量に生えており触るとトゲで大変なことになりますがこれでお茶やスープを作ると鉄分たっぷりで体にもよく、おいしいです。最近日本でも徐々に見かけることが増えたエルダーフラワーも雑木といったら失礼ですが、山盛りどこかしこにも生えるので摘み放題です。これをシロップにして水や炭酸水で薄めて飲んだり、甘い生地で天ぷらのようにしておやつにします。そのまま食べられる野生のキイチゴもあります(子供との取り合い)。

繁殖期のキジの色の美しさ、野ウサギのウサギイメージを払拭する筋肉質の後ろ足(そしてでっかい)、空の高いところでホバーリングするワシ、雪の時はひたすら静かな森の中、春には視界いっぱいに広がる新緑の色、木の匂い、鳥のこえ、五感が刺激されます。リスやフクロウに出会ったり、野生のハリネズミもいます。リアルディズニーという感じでとにかく森は宝の山です。

私は全然アウトドア派ではありません。むしろ土まみれになることや虫などがあまり好きではありませんでした。でも、この森での発見が楽しいです。

東京からデンマークに移り住み改めて感じる自然の偉大さ

森の中でのお気に入りの場所。

私は元々ずっと都会暮らしだったのですが、そんな自分がデンマークに暮らしてみて、自然と触れ合うことって良いなと思うことが多々あります。

デンマークに来て最初のころは、こんなに森が自分の生活の大きな部分を占めることになるとは思いませんでした。私は日本では東京の中心部に住んでいたのですが、交通の便も良く生活には全く困らない場所でした。部屋はワンルームでちょっと狭いけど手の届くところに全てがあって、なかなか便利でした。ところが、デンマークに移住して住んだ所は森の中、一番近いスーパーまで片道3km、バスは1時間に1本、電車に乗るには片道40分の隣町まで行かないといけない、という場所。歩いていてまず人よりも動物に会う頻度が高い。今までの生活と真逆の場所に来てしまい困惑しました。ですが、現在ここの生活は何ものにも代えがたく、なぜか。住めば都ということもあるかもしれませんが、森での発見の楽しさや精神安定効果が半端ないのです。今ではあの東京の大きな道路沿いのワンルームで暮らせていた私に戻れるとは思えません。

デンマークでは、首都であるコペンハーゲンでもちょっと郊外に行くと野生のシカがいるような小さな森があります。東京ではなかなかそういう場所はないのではないのでしょうか。デンマーク人にとって森や自然はどこに住むのかに関わらず割と身近にあると感じられるものなのかもしれません。

ちなみに、私の住む森にはブナの木が多く生えているのですが、春の新しい葉は色も薄く、縁に産毛が生えていて生まれたて感があってかわいいです。

自然が影響する生活事情@デンマーク

近年環境問題や持続可能な社会の構築が世界中で叫ばれていますが、こういう森での体験は自然環境の大切さを身近に感じさせてくれ、どこか遠くの世界でのことという感覚でなく、私個人の活動も影響しているであろうという気持ちにされます。

やはりこのような田舎暮らしには基本的に自家用車での移動が避けられませんが、インターネットがあれば買い物には困りません。デンマークでは人件費が高く、むしろ同じ商品をネットで買ったほうが店舗よりも安いのもあり、地方に住んでいれば積極的に利用している人は多いです。

私がよく接する高齢者にとってはやはりまだまだ買い物に出かけるというのがしっくりくる人が多い印象ですが、ネットスーパーでの注文を利用している高齢者ももちろんいます。最近のニュースで、デンマークの高齢者のインターネット利用率は他のEU諸外国の中で一位という統計を見ました。実際仕事で色々な家に訪れると、日本と比べると確かに最新機器というわけではなくても家にパソコンがある高齢者家庭を多く見かけるのはあります。

デンマーク人を見ていると、森や林を散歩やジョギングする人が日本に比べ多い気がします。私は日本では筋金入りのインドア派だったのですが、こちらに来て森を歩いたりすることが多くなりました。正直、むしろそれが無いと体調がおかしくなってしまうのです。デンマークの長い冬の間の暗い日々は季節性うつになりやすく、私も最初のころは大した事ないだろうとなめてかかっていて結局病院のお世話になりました。自然の中で過ごす事が精神面にどれだけ影響を及ぼすのかということを身をもって感じました。森林浴は良い、って日本でも言いますもんね。

デンマーク人と話していて、「自然が好き」という人は多いです。「自然っていいよね」みたいな。私の感覚では都会の人ほどそういうことをいう気がします。デンマークは先述したように日本に比べて都会の中でも木が多かったり森があったりする方だと思いますが、来たばかりの頃の私は、「いるよねー、そういう都会人。で虫とか触れないんでしょ?」とか(お前だ)、ちょっと斜に構えていましたが、デンマーク人の自然好きっていうのは、その心地よさや触れることで感じる安心感を無意識にも身にしみて感じているからなのではないかと最近は思っています。

おすすめです、森!

ABOUTこの記事をかいた人

Rikka

東京都出身。看護師・保健師。都内総合病院に勤務していたが、2010年、夫の仕事の関係で英語も話せないのにデンマークに移住。まずは環境に慣れるためとデンマーク独自の学校システムであるフォルケホイスコーレにて学生生活をスタートする。現在首都コペンハーゲンのあるZealand島の片田舎在住。Zealand内の総合病院にて看護師勤務を経験し、地域医療/福祉に目覚め、現在看護業務をしつつ、フォルケホイスコーレの非常勤スタッフも務める。 そのほか、北欧における難民援助調査の取材コーディネーション、美術館の所蔵品に関する翻訳、その他現地研修通訳などの経験あり。個人的な趣味は裁縫・美術鑑賞・古着収集など。カタツムリと猫が大好き。