デンマークで生まれ、暮らしている岡村彩さん。
「ayanomimi」という日本とデンマークをつなぐことをミッションに活動する彩さんに、
デンマークの文化や習慣、くらしについてお話しいただきます。

今回は、デンマーク人の住まいに関する価値観について。
先日リリースされた「Olive Barstool」についてもお話しくださいました。

岡村 彩 AYA OKAMURA

デンマーク、コペンハーゲン生まれ。
日本人の両親のもと、アルネ・ヤコブセン設計の個人住宅で育ち
地元の幼稚園、学校に通いデンマークの教育 を受けて育つ。

幼い頃からクリエーターに接する機会に恵まれデザインビジネスに興味を持つようになり
大学ではコペンハーゲン商科大学大学院(慶應義塾大学商学研究科)で経営学を専攻。
2009 年にはインキュベーションオフィスCopenhagen School of Entreprenuershipの一期生となり
ビジネスコンサルティングの会社「ayanomimi(アヤノミミ)」を設立。
日本語、デンマーク語、英語でビジネスがスムーズに進むためのコミュニケーション、イベントプロデュース、ブランディング、ビジネスのコーディネート、企業戦略のアドバイスなど、幅広く行う。
日本とデンマークのポテンシャルを活かしたコンサルティングと新たなビジネスモデルの企画プロデュースを行っている。

日本とデンマークが混ざり合う アルネ・ヤコブセンの家で育つ

 私は、デンマークのコペンハーゲンで日本人の両親のもとに生まれました。幼い頃からデンマークの学校に通い、友だちと遊ぶのも学ぶのもデンマーク語。ただ、家に帰ると、父や母が日本語の読み書きを教えてくれて、日常の会話は日本語でした。食事も和食が中心でしたし、井上陽水など日本人アーティストの音楽が流れているなど日本文化に触れることも多く、デンマーク文化と日本文化、どちらも自然に吸収しながら大きくなったように思います。

 6歳のとき、それまで暮らしていたアパートメントを離れ、一軒家に引っ越すことに。そこは、1936年に建てられたアルネ・ヤコブセン設計の家。父は家具デザイナーで、母もクリエイティブな仕事をしていたこともあり、家にはデザインや建築を学ぶ日本人の学生や父母の友人が、入れ代わり立ち代わり遊びに来る賑やかな家でもありました。

ご両親が暮らしているご実家

 そんなふうに育った私が、「日本とデンマークのつながり」「メイド イン デンマークが日本でどのように受け入れられているのか?」を論文のテーマに選び、大学院卒業と同時に『ayanomimi(アヤノミミ)』を設立。日本とデンマークのビジネスをつなげ、デザイン・ライフスタイル・イノベーションの分野で、日本とデンマークの企業が、互いに価値を生み出すためのサポートや、そのための企画・プロデュースを仕事にしたことは、とても自然なことだったと思っています。

コペンハーゲンの中心地にある「Ayanomimi」オフィスにて

互いに惹かれ合う 日本デザインとデンマークデザイン

 「北欧デザイン」という言葉を聞くと、フィンランドのマリメッコやアラビアに代表されるようなカラフルな色使いのデザインを想像する方もいらっしゃるかもしれません。しかし、実は北欧デザインといっても、デンマーク、スウェーデン、フィンランド…とそれぞれ特徴が異なるように思います。なかでもデンマークの特徴は、“素材”にあるのではないでしょうか。自然素材を大切にし、木製であれば、どういう木を使うのか、どういう質感に仕上げるのかにこだわります。装飾は華美でなく、削ぎ落としたデザイン、色や柄は控えめで、好まれるのは自然に近い色づかいです。そういう点が、デンマークデザインは日本の家や、日本人の好みと相性がいいといわれるゆえんかもしれません。

さらに、デンマークと日本のデザインは歴史的にもつながりがあったことで知られています。2017年は、日本とデンマークが国交を結んで150年という年だったことから、コペンハーゲンにあるデザイン ミュージアム デンマークが「LEARNING FROM JAPAN」を企画。2015年から2017年にかけて、デンマークのデザインが日本のデザインからいかに影響を受けていたかを表すエキシビションを展開していました。そこには、デンマークを代表する家具デザイナー ポール・ケアホルムやコーア・クリント、アルネ・ヤコブセンらが学んだ資料のなかに、日本の陶芸や工芸、建築などに関するものが含まれていたこと、パリ万博などを経由して持ち込まれた日本の書物などから、多くのデザイナーが意識的・無意識的にさまざまなことを学んだということがわかる展示がされていました。

LEARNING FROM JAPANの様子 (Design Museum Denmarkにて)

 そうした展示から私が感じたのは、日本人とデンマーク人とは、家具の大きさ、座り心地や高さなど、どういうものに“しっくりくるのか”が似ているということでした。それぞれインスパイアされながら育んだ文化があり、デザインがある。そう考えると、互いに惹かれ合ったり、日本デザインとデンマークデザインはマッチしやすいと言われるのにも、うなづけるような気がします。

住まいは“私”を表現する

 以前、デンマークの人が住まいやインテリアをどのように考えているのかをまとめたレポート制作をお手伝いしたことがあります。そのなかで、何人かにインタビューを行いました。そこでわかったのは、デンマークの人は “自分の個性やパーソナリティを家やインテリアに反映させたい”と考える傾向が強いということでした。それにはいくつかの理由があるように思います。

 ひとつは気候。夏は明るく夜中まで外で過ごすことができますが、秋冬は暗くて寒く、家で過ごす時間が極端に長くなるデンマーク。そのため、「長い時間を過ごすのだから、自分が心地良いと感じる場所にしたい」と考えるのです。また、デンマークは、家賃が高く、生活費の中で住む場所にかかる割合が多いことも理由のひとつ。日本の家賃も高いと思うのですが、一方で外食は、お店を選べばあまりお金をかけずにできます。しかし、デンマークは家賃が高い上、外食にもかなりのお金がかかります。だから家族が家で過ごすのはもちろん、友だちとの食事も家に招いて行うのが一般的。招待を受ける頻度で言えば、一週間に2回くらいは、誰かに招かれたり、招いたりしている感覚です。参加せずとも声をかけられている頻度で言えば、もっと多いかもしれません。そうした習慣からも、自ずと住まいへの関心が高いのではないでしょうか。

 さらに、日本とデンマークでは、ファッションと住まいに対する考えが反転しているようです。日本人は、住まいよりもどんなファッションが好きか? どんな洋服を選ぶのか?で自分自身を表現したい、自分自身をあらわしていると考えているように思います。一方、デンマーク人は、個人主義で自分の意見をはっきりと述べる人が多いですが、その反面、自分だけが目立つことをあまり好みません。そうした価値観もあってか、ファンションの好みはかなり保守的。最新のトレンドにもあまり関心がなく、その分、住まいで自分を表現したいと考える人が多いのだと思います。

完璧さより「あなたらしいね」と言ってほしい

 前述のレポートのために、シェアオフィスのコミュニティに「あなたの住まいを見せてもらえませんか?」と投げかけたところ、あっという間に25人ほどから「うちでよければ!」「うちはどうかな?」というメールが返ってきました。我が家を見てほしいと思う人がそれだけ多いのです。メールには、各々のアピールポイントが書き込まれていて、ぜひうちを選んでーというメッセージが添えられているものがたくさんあり、デンマーク人の国民性を表しているなぁと、思いました。

 そこからは、「見てもらいたい」という気持ちとともに、「すごくあなたらしいね」と、言ってほしいという気持ちを感じます。「雑誌で見たようなかっこいいお家」は目指すところではなく、いかに自分らしいか、自分にしっくりときているかがポイント。たとえば、「自分が旅先で買ってきた思い出の品」をお気に入りのスペースに置いていたり、「一目惚れをして、どうしても欲しくて時間をかけて購入した家具」が中心だったり、「おじいちゃんから受け継いだ家」だったり、そういう自分の歴史や背景、趣味・趣向など、語れる物語があるものが大切で、そういうものを見てもらいたいと思っているのです。

 ですから、住まいやインテリアの完璧さや、すでに完成しているかどうかはあまり重要ではありません。大切なのは、誰かの好みや、何かの受け売りや、どこかの流行ではなく、たった今の自分を軸として今の住まいがあるということ。それをまた、時間をかけながら目指す方向に変化させていくこともあれば、家族が増えるとか、引っ越しとか、そういった変化に応じ、その時の自分らしく変化していってもいい。デンマーク人は、住まいの変化のプロセスそのものを楽しんでいるようなところがあるように思います。

 そんなふうなので、デンマーク人が誰かと一緒に住み始めると話題になるのが「どちらの趣味を優先するの?」ということ。家族が増えたり、誰かと同居したり、彼や彼女と一緒に住み始めるとき、2つの世界観をどう融合するのか、どちらの好みのスタイルをより優先された家にするのかというのは、みんなの関心事です。カップルによっては世界観がぶつかってしまい、話し合いが長引くことも。住まいのスタイルが問題になったり、話題になったりするのも、デンマーク人らしいかもしれませんね。

トレンドを生み出しにくい? デンマークの価値観

 デンマークでは、DIYも盛んです。日本人からすると、どこでそんな大工さんのようなスキルを身につけたの?と言いたくなるような人もたくさんいます。おじいちゃんが小屋をつくるのを手伝ったとか、お父さんと一緒にどこかをリノベしたとか、そういう経験が受け継がれているのです。

 私の友人カップルもキッチンを取り替え始めて、すでに2〜3カ月かかっています。でもその不便は乗り越えて、なんとかコストを抑えつつも自分たちらしい空間にしたいと考えているようです。そういう志向の若い人は多いので、20代30代は、やたらといろいろな友だちの家に、ペンキ塗りの手伝いに出かけることになります。これは順番に巡ってくるものなので、お手伝いに出かけたら、自分のときにも来てくれる、というように互いに助け合っているようなところがあります。

 そんなDIYが盛んな国ですが、同時に、家具に関しては、デザイナーや職人の技がとてもリスペクトされています。それは、たくさんの著名な家具デザイナーを生んでいることは国の誇りだと考えていること。、また、流行よりも品質・機能が優れていて、世代を越えて受け継げるものを選ぶ国民性であるため、長く愛されている家具への思いが強いことが関係しているのかもしれません。もちろん、デンマークにも日本の100円均一のような安価なプロダクトを購入できる場所もありますし、手頃な大量生産の家具を選ぶこともできます。ですが、私の感覚では、100円均一のようなお店で売れているのは、消耗品と割り切れる紙製品のような文具やおもちゃ。手頃な家具は若い世代が一時的に購入するものという認識があるように思います。いつかお金を貯めていい家具を買いたい、独立や結婚、子どもが生まれたときなど記念や節目の時に購入したいと考える人が多いのです。

 「デンマークではトレンドを生み出しにくい」と言われることがありますが、それには、“消耗品・一時的と割り切れるもの”が必要なのか、“長く使う普遍的なもの”がほしいのか、ものを選ぶ基準がはっきりしているデンマークの人の価値観が影響しているのかもしれません。

買う楽しみより、使う楽しみ

 日本を訪れるといつも思うのが、買い物が楽しいということ。一歩街に出ると、買いたい!ほしい!と思うものに溢れ、世界中のものが集まっていて、すごくそそられます。ちょっとコンビニに入っただけでも、なにかほしいなと思ってしまう。もちろん、東京と地方では違う部分もあるとは思いますが、ものが豊富にあり、ついつい欲しくなるものがたくさんある国です。でも、デンマークに帰り日常に戻ると、家で過ごす時間が長いので、「今なにが必要かな?」と考えて、家で使う頻度が高いものを優先して買おうという気持ちに変わります。たとえば、「コーヒーを飲む時間はとても大切にしているから、コーヒー関係のものなら少しお金をかけてもいいかな」と。買い物にでかけたときも、「コーヒーの、あれをみなきゃ」と目的を持って動きますし、それほど品揃えもないので誘惑も少ないです。自分らしい住まいをつくるという視点から見ると、日本はものが豊かすぎる、誘惑が多すぎるのかもしれないですね。

 もし、デンマーク人のように自分らしい住まいにしたいなと考えるのであれば、「買う楽しみよりも、使う楽しみ」を大切にすることを意識するといいかもしれません。細々としたついついほしくなるものを買うのを、仮に10回お休みして、その分使うことが楽しみになる何かを手に入れてみてはどうでしょうか。最初から完璧に揃えようとすることはないように思います。まずはテーブルだけを買って、椅子はバラバラでもいいし、デンマークのものと日本のものをうまくミックスしてもいい。物があふれる街にでかけても、自分らしいもの、今必要なものはなにか?ということから軸をぶらさずにいること。自分の本当に好きなもの、しっくりくるものに出会うプロセスそのものを楽しむことで、自分らしい住まいが形づくられるかもしれません。

日本らしさとデンマークらしさの融合「Olive Barstool

 今回、「ayanomimi」は、日本とデンマークをつなぐプロジェクトとして、「Olive Barstool(オリーブ バー スツール)」をリリースしました。デザインは、家具デザイナー岡村 孝とErik Marquardsen(エリック・マークワードセン)によるO&M Design。良質な木製の脚と丸くて柔らかなシートが特徴で、日本とデンマーク、それぞれの良さが表現されています。日本の人から見ると、デンマークっぽいねと思える佇まいがあり、デンマークの人から見ると、日本らしさがあるねと新鮮に感じる、日本とデンマークのいいところが融合したようなスツールになりました。木の美しさをいかした、シンプルながらも美しい形をしたデザインや、その技術はまさにメイドインデンマーク。また、シート部分がファッションを変えるように取り替えることができる部分は、デンマークの人にとって日本らしく感じる部分ではないでしょうか。シート部分だけ取り替えれば、お部屋やオフィス、お店などの雰囲気をがらりと変えることができるほか、メンテナンスしやすく機能性にも優れています。
 日本とデンマーク、双方の文化に根付いているのは、「いいものをつくるには、手間ひまがかかる」という考え方です。丁寧なものづくりをしてこそ、いいものが生まれる。「Olive Barstool」もまた、そのことを体現した家具です。多くの方に、この「Olive Barstool」を触れていただき、手に入れてくださった方がいつまでも長く大切にしたいと思ってもらえたら、とてもうれしく思います。

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