北欧の便りシリーズで連載をしていただいているデンマーク在住のRikkaさんにデンマーク の現状についてレポートをいただきました。

新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大によって、世界規模で今までの生活に大きな変化が出ていますね。私も最初はインフルエンザに似たようなものだろうと甘く見ていて正直ここまで大変になるとは想像し難かったです。

デンマークの私の周囲でも最初は似たような感じで、わざと咳をしたりしてふざけたりしている人を見たりしたのですが、ニュースなどの報道で感染者が集中治療室に入院、死者まで出るなど深刻な状況が増えるにつれて、これは大変だ、と認識が変わってきたように思います。

今回は、デンマークでこの新型コロナウイルスに対する経緯や動きがどんな感じだったのか、また現在はどうなっているのか、私の周囲の状況から一部ご紹介したいと思います。

感染拡大によるロックダウン

デンマークでは、2月の冬休みなどでイタリアや他のヨーロッパの国々へのスキーツアーへ参加・帰国したデンマーク人からの感染報告が急激に増加しました。

デンマーク国内の危機感も高まってきたところで、ある日政府からロックダウンの宣言がなされました。

翌日、医療職の現場はパニック。こんなに感染者が増えている中で、感染管理のガイドラインがまだはっきりと決まっていない状況下での勤務への不安が広まりました。

また保育所や学校が閉まったことにより、共働き家庭が普通のデンマークの生活スタイルにおいて、子供を誰が面倒みるかなど様々な不安が渦巻いていました。

ロックダウン中はスーパーと薬局以外はほぼ全て閉店、レストランもテイクアウト以外は認められず、公園のベンチも封鎖されました。公園の遊具も立ち入り禁止のテープが張られ遊べない状態になりました。行政サービスもほぼストップ。多くの企業もテレワークに変更され、自動的に家にいるしかない状況になりました。

政府のロックダウンの発表直後、スーパーでもスタッフ総出でレジや設備の消毒、2m間隔のレジ待ちのテープが床に貼られ、外に同時に店内に入れる人数の表示、レジスタッフと顧客の間につける透明なプラスチックの仕切りなど、素早く設置されていきました。

スーパーマーケットの店内の袋詰めコーナーも仕切りが設けられている。

ルールを守っていない場合は罰金刑も課され、警察も動き始めました。そして、企業や店舗などへの経済的な救済措置、また、医療職者や警察などのどうしても勤務を続けないといけない業種の人に向けて、数を減らしてですが保育所を再開する対策も早急に行われました。

コペンハーゲンの街中でもびっくりするくらい人や車が見られず、閑散とした風景になりました。今までデンマークでは日本のようにマスクをしている人は街中に皆無に等しく、今回の件でもマスクは感染の抑止に効果的だという政府からの見解はありませんでした。しかし、街中でマスクをして歩いている人に少なからず出会います。感染が収束しても今後日本のようにマスクをつける習慣が普及して、着けていても変に見られなくなると良いなと私はこっそりと願っています。

コロナに対する国などの対応の速さが安心に

私の印象としては、ロックダウンが発表されてから対策が割と早く施行されたように思います。政府の強制力や人口の少なさもあるとは思いますが、ロックダウン決定の早さが結果的には安心に繋がりました。もちろん、日常生活や業務への支障は少なからずありましたが…

また、デンマーク政府の作成した1分程度のビデオがとても良かったのを覚えています。ヘルスケアを担当する省の大臣自ら出演し、とても分かりやすく、してはいけないことだけの説明というわけではなく、みんなでお互いに助け合おうという雰囲気が感じられました。例えば、呼吸器系の慢性疾患を持っているようなご近所さんの為にお買い物をして来て、直接の接触を避けるためにドアの前に置いておいてあげようというのは暖かくていいなと私は思いました。

政府が作成したビデオ。老人とのテレビ電話での連絡などわかりやすく行動の指針を説明している(デンマーク政府Youtubeチャンネルより)

こういう時だからこそ助け合おう、というのはとても良い視点だと思います。また女王のスピーチも放送されました。通常、女王のスピーチは年末に行われ一年を振り返るようなものなのですが、今回は異例で行われました。

また印象的だったのは、『首相のこのやり方はもしかしたらやりすぎかもしれない、でも今必要という見解に至った、だからこれを実行していきましょう』という言葉でした。私は、自分が間違っているかもしれないけれど…と前置きをする言葉が人間味を感じられる一国のリーダーという感じで、逆に国民に信頼感を与えました。

加えて、このような不安と混乱の中で人々の精神面に向けてのアプローチもありました。ロックダウン中、国営のラジオ放送はいくつかのチャンネルをまとめて、普段は番組の無い深夜2時頃から早朝にかけて特別な番組を放送するようになり、普段は曲以外に聞かない人の声が聞こえ、医療職者や警察、スーパーの店員に向けての感謝のメッセージなどが読み上げられたりするようになりました。この、先の見えない不安感に寄り添うような放送は有難いなと思いました。

ロックダウン中は、外に自由に出られないことでの運動不足や精神面でも体調を崩しやすいと思います。そんな中で森で過ごす人が多くなり、駐車場に普通なら2,3台しかいない車が、10台以上という日もざらにありました。森の中のマウンテンバイク用の舗装道が自転車で渋滞するという現象も起こったりと、良いのか悪いのか…ということもありました。

コロナのテスト用ブース。総合病院の外に作られている。ドライブイン形式のものもあって車から降りずにそのままテストを受けられるのは安全で素早い。

ロックダウン解除後と現在

5月の半ばからロックダウンが段階的に解除され、カフェやレストランも再オープン。段階的に学校や公共施設もオープンされ、現在はほぼロックダウン以前の生活に戻りました。近隣諸国の国境移動封鎖も徐々に解除されてきています。

とは言っても、感染の危険性が完全に無くなったわけではありません。まだ屋内の人数制限はありますし、デンマークの一番みんなが外に出て色々なアクティビティをしたい夏の季節の今、やっぱりちょっとこの行動制限に疲れてきている印象もあります。

ロックダウンの最初の数週間は、いくら政府の政策が出されていても実際の自分の生活で何をしていいのか、どういった行動がいけないのかという線引きが良くわからない、という人々の印象を受けました。でも、3ヶ月近くにわたるロックダウンで人々の動きが割と自然に感染を避ける行動に慣れたように思います。

手指消毒や手洗いが頻繁に行われていたり、自然に電車でも間をあけたり対面で座らないようにと気を付けている人が多いように思われます。今まで普通の挨拶の仕方であった握手やハグも自然に気を付けられているようになりました。もちろんたまにちょっとうっかり久しぶりに会った友達とハグしてしまったというのはありますが。でも、みんなそれなりに気を付けているようなのは良いことだと思います。

コペンハーゲン地下鉄内の密を防ぐための注意書き

コペンハーゲンのレストランでは、いろんな手に触れるのを避けるため、お客さんにメニューを渡すのでなく、テーブルにあるQRコードを読み取りメニューを携帯で見てもらう、という風にやり方を変えたり、以前にご紹介したレストランNOMAはハンバーガーのテイクアウトか敷地内の外のベンチでの飲食ができるようにと工夫して営業再開しました。むしろ通常は食べられない特別メニューという付加価値もあり、ポジティブな気持ちになれます。

カフェや店舗には店内での人数制限やアルコール消毒のボトルや機械が設置されている。

デンマークのこれから

デンマークは7月から夏休みシーズンですが、この状況下で美術館の入場料が半額、公共交通機関の定額乗り放題のチケットが発売されました。経済活動推進と感染を抑えるための両方を考慮した案と言えましょうか。そして、様々な夏のフェスティバルイベントはキャンセルとなりましたが、患者数や発症者が継続して減少していることにより、段階的に大人数で集まれる制限が解かれてきています。自分が感染しているかも、と心配になっても医者の紹介無しでネットで検査の予約もできるようになっています。

またあるデンマークのある政党でも今後の見通しを考え、グリーン・リスタートという呼称で、出来るだけ風力や太陽光などクリーンエネルギーをメインにこの経済損失を立て直していくべきだ、という提案が出されています。

つい6月にデンマークで新しく2030年までの目標が掲げられた「環境法」(直訳すると『気候法』)が発表されました。2050年を目的として5年ごとに自然環境に配慮した部分目標(地球の温室効果を生む二酸化炭素の削減)を設定し、それを達成して環境の改善を目指していくものです。

コロナという状況で改めて経済復興だけではなく、環境への配慮も強く打ち出していくというのが環境に関しての意識が高いデンマークならではの動きかと思います。

デンマークの環境意識についても連載で書かせていただいていますのでご興味のある方はぜひご覧ください。

『なぜデンマークがサスティナブル先進国と言われるのか?持続可能な社会へ向けての生活とは (前編)』

まだ安心できる状況とは言い難いですが、この状況を踏まえながら少しずつですが良い方向に進んでいるのではないかと思います。

ABOUTこの記事をかいた人

Rikka

東京都出身。看護師・保健師。都内総合病院に勤務していたが、2010年、夫の仕事の関係で英語も話せないのにデンマークに移住。まずは環境に慣れるためとデンマーク独自の学校システムであるフォルケホイスコーレにて学生生活をスタートする。現在首都コペンハーゲンのあるZealand島の片田舎在住。Zealand内の総合病院にて看護師勤務を経験し、地域医療/福祉に目覚め、現在看護業務をしつつ、フォルケホイスコーレの非常勤スタッフも務める。 そのほか、北欧における難民援助調査の取材コーディネーション、美術館の所蔵品に関する翻訳、その他現地研修通訳などの経験あり。個人的な趣味は裁縫・美術鑑賞・古着収集など。カタツムリと猫が大好き。