• 撮影:玉村 敬太
  • 編集:高橋 直貴 / 伊藤 亜莉

eläväniを運営する北欧インテリアショップ「greeniche」代表の今田が暮らしの一部のように仕事を楽しんでいる様々な方に「豊かに働き、豊かに暮らすためのヒント」を伺っていく企画。

記念すべき第一回目でお話を伺ったのは、ファッションデザイナーの滝沢直己さん。活動は自身の名を冠したモードブランド「NAOKI TAKIZAWA」のデザインから、世界中の人々の生活に寄り添うデザインを行うユニクロのファッションディレクター、特定の用途に特化した企業のユニフォームのデザインと多岐に渡ります。しかし、その根底には「美しいものを生み出したい」というデザイナーとしての矜持が通底していました。

滝沢さんが心地よく働くために心がけていることとは一体どのようなものでしょう。

滝沢直己

ファッションデザイナー 1960年生まれ、東京都出身。
ISSEY MIYAKEのクリエイティブ・ディレクターとして活躍後、2006年に独立。2011年、ユニクロのデザイン・ディレクター、2014年からはユニクロのスペシャルプロジェクトのデザインディレクターに就任。
2010年からは美智子皇后陛下の衣装デザインを担当している。
仏芸術文化シュバリエ勲章(2007年)など受賞歴多数。著書には「1億人の服のデザイン」がある。
2018年10月、NAOKI TAKIZAWA FITTING ROOMが代官山HILLSIDE TERRACEにオープン。

今田 憲一

インテリアショップgreeniche(グリニッチ)オーナー。 2003年から山陰地区に移住、独立。もともとインテリアやデザインに興味があり、暮らしのインテリアが持つ壮大な力を発見。
日々の暮らしを充実させることで生まれてくる、内面の豊かさ、ライフスタイルは人生設計や、仕事への「やりがい」にまで変わってくることを実感。
考え方が変わると、近隣の街並み、地域の環境、社会貢献、人への思いやりや尊重・敬愛が生まれてくる。単なるモノではなく、そういった暮らしから変えていくことで、生き方に潤いが生まれ、発想が豊かになり、感性が磨かれ、連鎖するようにまわりの地域が活性され、本人だけでなく社会全体が少しづつ豊かになる。
そんな力を信じて、世界から、各地域の知恵や発想、素敵なデザインや商品を日々探索。 様々な国から素敵な暮らしを学び、ただ真似をするのではなく、日本独自の暮らしスタイルを生み出し、今後も更に学び、よい提案していきたい。

1980年代、世界で戦うデザイナーの姿に憧れてファッションの道へ

今田:滝沢さんはどのようにしてデザイナーとしてキャリアを歩み、成功を掴んできたのでしょうか?

滝沢:洋服のデザインを仕事にしたのは、単純に1980年代ごろ、日本のデザイナーが、商業的な服作りではなく哲学を持ってデザインをしていたのが格好良かったし面白く見えたからですね。

今田:勢いがありましたよね。ただ、当時だとデザインを仕事にするというのはやはり一握りで、時代としてはかなり早かったと思うんです。

滝沢:実は私自身小さい頃は体が弱く、学校にも半分ほどしか通えないくらいだったんです。試験も受けられず成績も5段階評価で全て2とかでした。ただ唯一5だった美術だけが得意で自然とその道に進んで言ったというのがあります。
あと高校時代からVANとかJUNといった男性ファッションに親しんでいたのが大きいですね。POPEYEのような雑誌が出てきて、そこからレッドウイングのブーツやリーバイス501といった海外の銘品の情報に触れるのが楽しくてしょうがなかったですね。発売日に買っていました。

その後、高田賢三さん、山本寛斎さん、三宅一生さんなど社会的にデザイナーが注目されていきました。ネクタイなんかしてないし、ジャケットも着ずに日本人が外国に行って外国の人と仕事をしている。これが本当に格好良かった。SONYなんかも世界で注目されていましたけど、デザイナーの方がもっと近く感じられたんですよね。

初めてイッセイミヤケの洋服を見たときは、縫い目があるべきところに無いことに驚きました。シャツといえばブロード生地が主流なのにガーゼでつくられていたり、着物をつくる生地で洋服を作ったり。そんな発想は海外には全く無いんですよ。ああ、ファッションはこんなに自由なんだなと感銘を受けましたね。ただ、今のようにデザインがビジネスと結びついているというのは全然わからず、みんなが美のために仕事をしているんじゃないかと勝手に思ってましたね。

1億人のための洋服をつくる。転機となったユニクロでの経験

今田:イッセイミヤケではデザイナーとして活躍され、独立されてからはユニクロではディレクターと様々な経験をされていますが、それぞれどのような違いや楽しさがありますか?

滝沢:それぞれ違う立場としてやっている感じですね。イッセイミヤケではデザイナーでユニクロはディレクター。デザイナーは自分の美意識のため自分の信じているものをだし、自分が中心になってものをつくる。ディレクターはデザイナーも含めて、第三者的に全体を俯瞰し、正しい方向に導く。それはあらゆる知識がないとできないことなんです。だからマインドも全く違うんですよね。

今田:バランスをとって一番いい形に調整する役だということですね。

滝沢:そうですね。ディレクターはブランドの想いを誰にどう届けるのか?ビジネスやデザイナーなどそれぞれのポジションからバランスをとって考える役割だと思っています、一方ファッションデザイナーはエゴイスティックな存在で、ファンのために洋服をつくっていく。デザイナーがクリエイティビティを発揮できるように好きにやらせた方がいいと思うのですが、日本の企業はデザイナーを一人の会社員として捉えてしまって本来の能力が発揮されないことも少なく無い状況にもったいないなと思います。

今田:いわゆるモードの先端であるイッセイミヤケから独立してユニクロへというのが僕から見ると大きな方向転換に見えたのですが

滝沢:こうしたやり方にたどり着いたのは僕がちょっとオタク的というか、元々プロダクトが好きだからということもあります。学生時代に雑誌を教科書にして服の歴史の勉強をしてきたんですよね。当時通っていた桑沢デザイン学園のそばにあったバックドロップというお店に毎日のように通ってお店の人から色々勉強させてもらいました。特にユニフォームのデザインにはすべてのディティールに理由があるというのをそこで学んだんですよ。アルマーニなんかはもともと軍服がベースにありましたしユニフォームってプロダクトデザイン(工業生産品)なんですよね。

当時ファッションデザインはサンローランなどデザイナーの感覚とか感情で作られていて美しい服だと思っていたんですが、歴史というものから見たときは世界中のユニフォームの作りかたはこだわっているし、全てに理由がある。ボタン一つや襟の幅にも理由があるというのをユニフォームの歴史から学びました。

一方ユニクロは制約せずにあらゆる人が必要なものをつくるという考えなんですよ。少数の美しいものでなく、誰にでも手の取れるものを全世界中で作る。日本人の民芸の哲学はユニクロが伝承していると思います。日本人らしいデザインの答えの一つはユニクロだとすら思いますね。ヨーロッパ、アジア、アメリカ、どこへ行っても着られているというのはファッションデザインを超えてプロダクトデザインですよね。

ユニフォームの歴史から学んでいた事が自然とユニクロというブランドでの仕事をすることに繋がっているかもしれないです。

今田:ユニクロではモデルのイネス・ド・ラ・フレサンジュさんとのコラボレーションはとても印象的だったのですがどのような経緯であのプロジェクトは始まったのですが?

滝沢:柳井さんが「こんな人と一緒にユニクロを考えればすごくいいものができるんじゃないか?」とイネスのスタイルブックを持って来たんです。
ユニクロのコラボレーション担手はそれまでデザイナーだったのですがイネスはモデルもしくはライフスタイル提案者であり、いわゆるファッションデザイナーではなかった。そこに目をつけて一緒に服づくりをしていけばいいものができるのではないかという発想が柳井さんのすごいところだなと思います。ユニクロはあらゆる人たちが本当に必要としているものを作りたいという信念があり、柳井さんの想いを実現したかったし、衣服を通して社会貢献したいと思いました。

当時名前は知っているが直接の繋がりはなかったり、色々と大変な事はありましたが、最後まで諦めませんでした。自分自身ものを投げやりにするのが嫌いで、唯一自分が強いなと思うところは諦めないってことですね。

今田:イネスさんとのプロジェクトなど海外の文化に触れて、感覚の違いなどは感じますか?

滝沢:私はパリ、ニューヨーク、ストリートなど自分でテーマを設けて年に2回は現地にリサーチに行くんですが、色々な国の違いを見ていると、人は国がつくってるんだなということを実感しますね。例えばフランスの人たちはあんなに美しい街や美術があって、そこで暮らす人には常にそう行った基準に囲まれて生活している。デザイナーもメイクアップアーティストも芸術家たちに匹敵する美意識でものをつくっているという誇りがある。かなわないですよ。私たちが背伸びして、背伸びして、やっと一番下が見えるぐらいですね。向こうでファッションデザインの仕事をすることで、同じ程度の基準として持てたっていうのは自分にとっても大事な部分ですね。

日本ではなんのために作るのか?という部分がとても弱い。これが人気らしいとか、いくら収益が見込まれるからといったデータ的な基準でものをつくっているところもあるのですが、それはAIにとって代わられてしまう仕事ですよね。

人生を充実させる分類や比較をしない自分らしい働き方

今田:よく日本では仕事を楽しめていない、生きがいになっていない人が多いと言われていますが。各国でリサーチや仕事をされている中で、滝沢さんは心地よく働くために意識していることはありますか?

滝沢:それは、日本の企業でありがちなオンとオフという分類を無くせばいいんじゃないかと思いますね。1人の人生はオンオフで分けられるものじゃないですよね。

根本的に人間は自分たちを解説しやすいものにするために分類するんですよ。自分が何者かを説明できないのが不安なんでしょうね。そうして自分をわかりやすく分類し、システムに組み込まれていきます。それこそ会社は「オン」「オフ」という考え方じゃないと従業員を管理することができないですからね。

でもオフになったからといって違う人間になるわけじゃない。本当は全部がライフであって、仕事か遊びかということじゃない。

今田:それは同感ですね。仕事を面白くするためにプライベートを遊んだほうが良いインスピレーションが生まれる。最近は「Work as life」という言葉もあります。 分類することには違和感があります。

滝沢:「あなたはこういう人間です」「こういう傾向があります」「なのでこの商品を買うと幸せになります」というように、マーケティングによって人の幸せすら分類されていくんですよね。でも、本来人々の幸福度っていうのはそうじゃないところで決まるわけですよ。風が吹いた気持ちいいな。ああ、この服は気持ちがいいな。という小さなことかもしれない。

どこで満足するのかがわからなければ、他人と比較して永遠に不幸せになりますよ。便利になる分には良いですけど、便利さを追い求めるがゆえに辛くなるのは、間違っていますよね。

今田:こうした分類から抜け出すためには、どうしたらいいのでしょうか?

滝沢:自立心が大事だと思いますね。ちゃんと自分の基準を持って、納得いく物をつくることじゃないでしょうか。今の若いデザイナーにデザインリサーチをお願いすると、みんなネットで検索しただけの均一な情報を提出してくるんです。例えば実際に布を触ればその特性が見えて、アイデアが浮かんでくる。どうしたらいいのか、答えの道筋が見えるんです。そのために自分が動いて、本物を知ることが大事なんですよ。結局は、そっちの方が効率的でもあります。

トレンドはどっから生まれるかっていうと、やっぱり人。デザイナーなんです。AIやコンピューターは予測は出来ますが、クリエイションの新しい一歩を踏み出すことができない。人間の反応が流行の始まりですから。人や空間とのコミュニケーションのなかからの創造力がデザイナーとしては大切だと思っています。それを形にできるデザインをしていきたいですね。

マーケティングではなく人間らしく生きるための服づくり

今田:先ほどお話にもあったイネスさんとのコラボレーションではデンマーク語で「人と人とのふれあいから生まれる、温かな居心地のよい雰囲気」という意味とされている「ヒュッゲ」という言葉をテーマにされていたのですが、どう言った経緯でそのテーマを掲げたのですか?

滝沢:イネスがある日ファッション広告で母と娘が目をしかめたような表情を写っている写真を見せてきて「この2人はすごいお互い憎しみ合っているわよね。そんなイメージから生まれた服あなたは着たい?」って言われたんです。
そこでイネスが「ヒュッゲ」という言葉を出して来たんです。ヒュッゲはいわゆる形とか言葉ではなくて日本で言えばわびさび的な意識な言葉。服で言えば着た瞬間に恋人同士が服に触った時の気持ちの良い感覚や、服が軽くて気持ちが良ければなんとなく自然と顔から気持ち良さが表情から見えてきたり、そう言ったなんとなく出てくるムードのことをさしていると思います。
イネスは「そういうきっかけになるようなものづくりを私たちはしてきたから今回のテーマは「ヒュッゲ」にしましょう」となったんです。

それを服で表すのはすごく難しかったです。なんとなく気持ちがほわっとする。着た時にふわっと気持ちいとか、知覚より感覚に訴えかけるようなデザインというのを考えた。自分が素になれるような。

ヒュッゲ自体は言葉では表すことが難しい言葉だと思っています。北欧では暗くて寒い夜という環境だったり、森に霊やお化けなどスピリチュアルなものなど、目に見えない感覚的なものに囲まれているからこそ雰囲気というものをとても大事にしているんだなと思います。

今田:心地いい時間や空間などとよく説明されますが、もっと広くて深いものと言われていますね。

滝沢:日本人もそういう感覚がある。神様がいて自然に囲まれていて何か見えない力を常に感じている。このヒュッゲという言葉はマーケティング的なものではなく、人間の本来あるべき姿を問いかけている言葉かなと思います。

先ほどの分類の話じゃないですけど、社会や政治というものに囚われるのではなく、自分たちが人間らしく構えて生きていくことっていうのが大事だなとイネスとのコラボレーションを通じて改めて思いました。

今田:プロジェクトの中での経験がご自身のプロジェクトにも影響を与えていますか?

滝沢:そうですね。自身のブランドである「NAOKI TAKIZAWA」はトレンドとかではなく、自分の信じるもの、いい服ってこういうものっていうのを作って行きたいなと思っています。ジャケットでも、本質的にエッセンシャルで誰もが上質的に着れるジャケットの原型というのを意識しています。

ものの流れの中に乗ることではなくて、自分の中で信じる服、確実に美しい服、さっきヒュッゲという言葉の話にもあったように「なんか気持ちをふわっとさせてくれる」というのを求められる服をこれからも作りたいと思っています。

Q.あなたの仕事をする上でお気に入りの場所 or ものはなんですか?

A.日がよく入る自身の事務所

一番のお気に入りの場所だという自身のオフィス。
木漏れ日や自然の光が入ってくる気持ちのいい空間でした。

滝沢さんインタビューを終えて

今回、「暮らしの豊かさと仕事の楽しさはイコールなのでは」というテーマに対して、
ファッションデザイナーの滝沢直己さんにお話を伺いました。

デザイナーという繊細なイメージとは相反して、頭に浮かんできたのは"エクスプローラー(探検家)"という言葉です。

最初から上手な人はいない。
未知の世界でも、何か一つのことに本気でチャレンジすることで知識や法則、そして苦悩の中にある喜びや達成感を得ることが出来る。そのための事前準備は徹底的におこなう。

その繰り返しが、素晴らしい出会いや大きなステージを作り出し更に眺めの良い山へと私たちを導いてくれるのではないでしょうか。

喜びや楽しさ、感謝の気持ちや豊かさというのは与えられるものではなく自ら作れるものであり、時に誰かと一緒になって達成できることもある。
ファッション業界に身を置く滝沢さんならではの視点と姿勢からそんな暮らしと仕事を豊かにするヒントを、ファッション業界に身を置く滝沢さんならではの視点と姿勢から教えていただきました。

NAOKI TAKIZAWA FITTING ROOM

『フィッティングルーム』がコンセプトのショップ。オフィス(アトリエ)の1階スペースにあるので、時には本人やアトリエのスタッフが接客もする。自身がデザインする『NAOKI TAKIZAWA』のシャツや『B-Tokyo』のジャケットが並び、アポイント制でフィッティング(採寸)をして、生地やボタンを選んでお仕立てするパーソナルオーダーサービスも行っている。商品はいずれもユニセックス。

HILLSIDE TERRACE C-18
29-10 Sarugaku-cho Shibuya-ku
150-0033 Tokyo JAPAN

+81 3 6455 0318 [TEL]
+81 3 6455 0324 [FAX]