サウンドバスってなに? 音を深く聞くことで得られる癒し
—HIKOさんがやられている「サウンドバス」とはそもそもどんなものなのでしょうか?
HIKO:今、私たちは音を娯楽のひとつと捉えていますが、『音が本来持っているパワーに立ち戻ってみたらすごいよ』というものです。音楽ってかたちもなく見たり触ったりできないけれど、振動なんですよ。振動はどこまでも繋がるし、人に伝わる。そういうことを五感で感じ、信じてみるものです。
—実際のセッションは具体的にどのように行われるのですか?
HIKO:参加者は目を瞑り、ヒーラーが演奏する音を聴くだけです。ディープリスニングですね。いろいろな音を組み合わせるのですが、私は基本的にクリスタルボウルを使っています。メタルのシンギングボウルや、木製の民族楽器、オーバートーンシンギングっていうホーミーのような発声で自分の声も使いますね。メロディや特定のリズムがあると、脳が次の音を予測して活性化してしまうので、メロディを作らないように気をつけています。そういうものが揺らぎ、α波を生み出すんですよ。
事故に遭い人生の底で体感した音のパワー
—HIKOさんは15年間ニューヨークで暮らし、サウンドバスヒーラーとして活動していらっしゃいました。そもそもサウンドバスに出会ったきっかけはなんだったのでしょうか?
HIKO:まず、大きな事故に遭って、健康も失い、持ち物も家もなくなって、本当にこれからどうするんだろうっていう人生の底で苦しんでいたんです。それでシャーマンのところに行ったんですよね。
—そこで音によって癒される体験をしたのですか?
HIKO:音を使った儀式をしてもらったのですが、普段聴いている音楽とまったく違ったんです。なんだか、自分のなかで音が鳴っているような、自分の身体の境界線がなくなっているような、そんな感覚で。私は仏教の家で育ったのですが、仏教ってキラキラしたことや不思議なこと、いわゆるスピリチュアル系と言われていることをあまり認めていなくて、私もその姿勢を保っていたんです。
—それで言うと、シャーマンってとてもスピリチュアルで、HIKOさんの当時の思想とは対極にあったわけですよね?
HIKO:そうですね。普段だったらちょっと拒否してしまうような感じだったんですけど、当時は本当に苦しくて。そこからスピリチュアル系のセッションとか心理カウンセラーのカウンセリングとか、とにかくいろいろなところに行ったんです。
—様々なセッションを受けながら、自分がやるなら「音」だと思ったんですか?
HIKO:いろいろなセッションを受けているうちに、やっぱり音の振動ってすごいなと再確認したんですよね。もともとクラシック音楽をやっていたり、音楽療法を勉強したりしていたこともあって、そのタレントを生かそうと思ったんです。そこからは振動や周波数のこと、量子力学の本を読み漁って、音のパワーにのめり込んでいきました。私が体感したように、音楽療法も人間の身体は楽器と一緒なんだという思想で。それをチューニングするための学問、方法という捉え方で勉強していたのですぐに結びつきました。
コロナ禍で始めたオンラインメディテーション
—HIKOさんは一昨年帰国して東京で活動を始められましたが、15年ぶりの日本の生活はいかがですか?
HIKO:帰国してからは友人が貸してくれた部屋を仮住まいしていたのですが、ニューヨークでは一人暮らしではなかったですし、開放的な家に住んでいたこともあり、日本の住空間に対して『しんどいー!』ってなってしまって。東京に住むのも初めてで、知り合いもほぼいなかったので、外国に住んでいるような感じでした。それで1年経つか経たないかくらいの時期にコロナが流行ってしまったので、ここからどうなってしまうんだろう?と。
—慣れない環境で、さらに自粛しなければならないって、物理的にも精神的にも窮屈ですし不安ですよね。
HIKO:私、結構元気なタイプなんですけど、そんな私でもつらいから、もっとつらい人がほかにいるだろうなと思って、毎日の習慣としてやっているメディテーションを、『やりたい人がいたら来てもいいですよ』という感じで、オンラインでやり始めました。コロナ禍でひとり暮らしの人はとくにしんどいと思うので、zoomでみんなの顔を見て「おはよう」って言うこともすごく今は大事だなと思って。今、毎週水曜日に広尾のEAT PLAY WORKSというところでサウンドバスをやっているのですが、オンラインだとどうしても音質が下がってしまうので、録音でどうにか発信できないかなと考えているところです。
HIKOさんが感じたアメリカと日本のセルフケア事情の違い
—ひとり暮らしで家に篭りきりだと、じわじわと落ち込んでいってしまったりしますよね。そんななかでメディテーションは、どんな影響を人にもたらすのでしょうか?
HIKO:メディテーションを続けていると客観視できるようになるんですよ。とくに、最近よく聞く“マインドフルネスメディテーション”というものは、『自分が、今、ここにいる』という身体の感覚と意識を感じるものなんです。
—逆に言うと、現代の人々は『自分が、今、ここにいる』という意識ができていないということでしょうか?
HIKO:そうですね。自分のことに気持ちを向けられていない人が多いんだと思います。そういう人は実践してみてほしいです。たとえば、過去のできごとやトラウマ、未来に対する不安ってすごく私たちを怖がらせるんですけど、結局実体のないものなんですよ。そういうことを考えていると心ここにあらずになる。つまり、今の自分を生きていない状態になってしまうんです。それをちゃんと『今、ここ』に戻してあげるということが、マインドフルネスメディテーションの大きな効果かなと思います。
—今でこそ、「マインドフルネス」「メディテーション」という言葉を聞く機会も増えましたが、まだまだちょっと懐疑的に思っている人も多いんじゃないかと思います。HIKOさんが長年暮らしていらっしゃったアメリカではメディテーションはどのように捉えられていますか?
HIKO:私の住んでいたニューヨークでは自分を大事にすることが、日本よりもっと当たり前のこととして捉えられています。あと、仏教とか禅みたいなことがクールだと思われている部分があるんですよね。1960年代に哲学者やミュージシャン、アーティストたちが東洋哲学に注目し始め、同じ頃に鈴木俊隆という禅のお坊さんがサンフランシスコに渡って、サンフランシスコ禅センターを設立したんです。1970年〜1980年代になると、チベット仏教のお坊さんたちが流入してきて、ダライ・ラマも普及活動を本格化させ、どんどん広がっていったというバックグラウンドがあって。
—日本にいると、マインドフルネスやメディテーション、サウンドバスって新しいものだと感じますが、アメリカには下地があるんですね。
HIKO:そうですね。そのムーブメントの第一世代が今はもう親や祖父母になっているんです。つまり、アメリカで今いちばん人口が多いミレニアル世代の親や祖父母から続くカルチャーとして、メディテーションも存在している部分もあるんじゃないでしょうか。あと、アメリカって健康保険がないから、身体に対しても心に対してもセルフケアの意識がとても強いんだと思います。だから、ジムだったりメディテーションだったりが日本よりも身近なものとしてありますね。
自分の居心地の悪さや違和感に“気づかない”というルーティンをしていると、変化が怖くなって“気づきたくない”になってしまう
—どこかが悪くなったら治してもらうということではなく、自分で自分をメンテナンスしたりコントロールしたりする力が養えたらいいですよね。とは言え、少し体調が悪いくらいじゃ仕事を休めなかったり、無自覚にストレスを溜めている人が日本にはまだまだ多いのではないかと感じます。
HIKO:自分の居心地の悪さや違和感に“気づかない”というルーティンをしていると、変化が怖くなって“気づきたくない”になってしまうんですよね。今、マインドフルネスが流行ってきているけれど、それをバカにするような風潮もまだまだあるし、嫌悪感を露わにする人もいる。そういう人にこそ本当はマインドフルネスが必要だろうと思うんですけど、きっと怖いんだろうなと思います。
『これが本当に美しいから、ずっと持っていたいんだ』っていう基準で選択する空間づくり
—先ほどおっしゃっていたとおり、メディテーションに対して揶揄するような印象を持っている人がいるということも含め、メディテーションをすることにハードルの高さを感じている人も多そうですよね。
HIKO:そうなんですよね。メディテーションって、すごく特別なものとしてプロモーションされがちなんですよ。朝日を浴びたきれいなお姉さんが海に向かってメディテーションしているみたいな写真があって、『それどこ!? そこ行かなあかんの!?』みたいな(笑)。
—(笑)。
HIKO:『メディテーションを始めたきっかけは、ガンジス川のほとりで夕日を見て』とか言われても、ねえ(笑)。 そういうことじゃないんですよ。私たちはこの東京で忙しく毎日暮らしている。この状況のなかでどうするの?っていう話なんです。
—忙しい現代の生活のなかで、どのような体験をしたら心が安らぐと思いますか?
HIKO:ガンジス川に行かなくても、たとえば自分の好きな道で自分の好きな木を見るだけでいいんですよ。木に芽が生えてるとか、そういう発見をした瞬間ってすごく嬉しくないですか? 『モノを買う』ということも、お金というエネルギー、ある種の価値を投資して、好きなものを手に入れたという“行為”を体験していることですよね。だから、メディテーションにまだ距離を感じる人は、今している体験をいかに自分の人生に美しく生かせるのか考えたらいいと思います。
—今している体験ということで言うと、コロナ禍で、家で過ごす時間が増えましたよね。HIKOさんは仮住まいを出て、現在のお宅で生活を始めましたが、メディテーションへの第一歩として空間作りで気をつけたほうがいいことはありますか?
HIKO:まずモノを捨てたらいいと思います。現代に生きる人は、美しく暮らすとか、自分が心地よく暮らすということよりも、便利さを取りすぎているんじゃないかと思います。住空間もそうですし、人間関係や全ての生活において、『これが本当に美しいから、ずっと持っていたいんだ』っていう基準でいろいろなことを選択したらいいと思う。みんなやっているから、便利だから、あの人に良く思われるから、とかじゃなくて、心の底から本当に大好きでずっと持っていたいと思うものだけをまわりに置いておく。その基準を自分に厳しく持つと、自分を『今、ここ』に戻してあげられるんじゃないかなと思います。
■HIKOさんのお気に入りのアイテム
お香と和ロウソク / 最近とくにハマっているのは和ロウソクと、Hibiのお香。メディテーションにぴったりの約10分ほど燃焼するタイプをダイニングに座りながら使用するそう。
(写真は過去にHibiとコラボレーションした商品※現在は販売されていません)
athletiaのスイッチング アロマルームミスト / セッション中や気分転換の時などによく使う精油の入ったアロマルームミスト。
athletia online store
https://onlineshop.athletia-beauty.com/ja/
石と浄化アイテム / 「石一つひとつにストーリーがあるんですよ」とHIKOさん。とくに思い入れがあるのはクリスタル。のちに親友となった友達と出会った時に音楽学校のクリスタルヒーリングの先生がくれたもの。