吟味に吟味を重ねて手にした、運命的な椅子との出会い
今田:素敵なインテリアの事務所ですね?インテリア好きの私にはたまりません。大宮さんもインテリアが好きなんですか?
大宮さん(以下敬称略):そうそう。私、そもそも家具が好きで。やっぱり好きなものに囲まれていたいという思いがあるんですよ。最初に買った北欧椅子がHans Wegnerの緑のBEAR CHAIRで。
今田:BEAR CHAIRが最初だったんですか!? レベル高すぎですね……!
大宮:でもMINI BEAR CHAIRですよ! もちろんポンと買ったわけではなくて、何回もお店に座りにいったんです。「いい椅子だ〜」と思ったんですけど、高いし買えないよなと。結局7回くらい通ったのかな……でも3回目くらいから店員さんも「こいつ買わないな、あ、また座ってるなー」くらいに思ったみたいで(笑)。で、その椅子のためにお金を貯めて、8回目で「買います」って言ったら店員さんも「ええっ!? まじすか!?」って(笑)。
なんでかわからないけど、すごく座り心地がいいんですよね。自宅に置いているんですけど、それが未だにすごく大好きで、その椅子くらい愛せるものに出会いたいと思っていて。木の手触りがすごく好きなんですよね。この事務所のテーブルと椅子も木で、プレイマウンテンの中原慎一郎さんに選んでもらったものです。内装もお願いしました。壁紙やら床板やら。全然飽きず気に入っています。
今田:好きなものに囲まれていたいというのは、事務所にも通じている精神なんですね。
大宮:うん、忙しくてまだ全然改造できていないんですけどね。Hans Wegnerを買ったときに、快適な椅子に座ることってこんなに幸せなのかって知ったんです。特別なことはしていないのに、その絶妙な傾きや湾曲で本当に疲れが取れるし、家に帰るとそこに座ってゆったり贅沢な時間が過ごせる。だからすごく大事に座っていて。ただ、家具って一期一会なんですよね。そういう意味でBEAR CHAIRのときのような出会いはまだなくて。
今田:でも、1月に出版された『大宮エリーのなんでコレ買ったぁ?!』に出てくるものたちとも、そういう運命的な出会いが多いように感じました。
大宮:そうですね。でも、「なんでコレ買ったぁ?!」っていうのに椅子は入っていないの。そういう上質なものはなにもなくて(笑)。私、感覚が子どもっぽいんですよ。子どもって「わーい!」って感情があるだけで、「コレ、上がるー!」と思ってものを選ばないですよね。でも、家具は大人のものだから「わーい!」じゃなくて……物件を探しに行く感じに近いかな。本当にこの家でいいのかってすごく吟味する感じ。だから家具を買うのと、この本に出てくるものを買うのとでは、全然テンションが違います。
「わーい!」という瞬発力で買ったモノたち
今田:この本に出てくるものは、ここに置こうとか、持っているコレと組み合わせたらいいんじゃないかって計画的に考えるよりも、そのもの自体に惹かれることが多いということですよね。
大宮:そうそう。そんな計画的に買っていないですね。だからあとで「なんでコレ買ったんだろう?」って思っちゃうんですよ。でもここが大事なんですが、わーい!って買ったものたちを考察することで、本当の自分がわかるんです。すれてない自分というか。深層心理の自分やら、奥底の無意識の自分に出会える。だから、わーい、は大事にしていて、物を買う。で、そのあと、えっと、なんでこれに惹かれたのか?を考える。すると見えてくる。自分がわかる。そういう本なんです、これ。でも、どちらも共通して出会いは大切かな。アトリエに置いている黄色と青の椅子は「すごいポップだ!」と思っただけで、用途が決まっていないときに買ったんです。でも、置いてあるだけでだんだん用途も見えてきて。必要だから買うというよりも、先に出会っちゃって、いつか必要になるんだろうなって思ってたら、やっぱりそういう局面が出てきて「あって良かった!」って思うことがあるんです。
今田:でもやっぱり「なんでコレ買ったぁ?!」と感じるものも、本になるくらいにはたくさんあるわけですよね。
大宮:そうそう。メッツの帽子も「わーい! メッツだ! メッツの帽子ほしー!」って買って、家に帰って来てから「わー……メッツの帽子とかかぶれない……」みたいな。でも、「わーい!」ってなった気持ちは覚えていて。
今田:なるほど。
大宮:グーパンチのガムもそうですよ。これはデザインがすばらしいとかじゃなくて、ただ「飛んだ! わーい!」っていう。打ち合わせで「もう!」とか言いながらグーパンチを飛ばしたらおもしろいかなって。やっぱり、全部いいと思って買ってるし、でも、そのいいと思う気持ちってしぼんでいく。逆に未だに「いや、でもコレは買うよね」っていう気持ちもある。それぞれに「いいな」の鮮度があって、賞味期限が早いのもありだし、長持ちするのもありだし、どちらにも惹かれます。『大宮エリーのなんでコレ買ったぁ?!』で書いているのは「わーい!」しかないです。
今田:でも、「わーい!」だけというか、単なる思いつきではないように見えました。
大宮:でしょ!! 買ったものから自分が見えてくる。後悔して「なんでコレ買ったんだろう?」と思っているわけではなくて、買った理由を思い出して、「そうだ、私はあの時こういう精神状態だったんだ」とか「こういう欲望を満たそうとしてたんじゃないか?」「意外と私ってこういう面があるのかも」とか。自分を知る手がかりみたいなところがあって、ある種アルバムのような感じなんです。
今田:じゃあ、買った理由はあとからわかることのほうが多いということでしょうか?
大宮:うん。でも、やっぱりその瞬間、なにに「わーい!」となったのかもわかっていて。たとえば、ドラえもんの財布を買った時に、ドラえもんのブルーがなかなか出せない鮮やかさで出ていたり、手触りがビニールじゃなくて滑らかなものだったりすると、「本当のドラえもんってこういう感じなのかも」なんて思ったり。それに加えて、その財布、頭からひもが出ていて、そこに鈴がついていたんです。鈴は首のところじゃないのか? 余ったからつけたのか? なんか意味があるのか? 普通は赤色の尻尾をつけないか?とかいろいろ考えた挙句おもしろくなってきて、「これはレアものだ!」と思って買ったんです。それをそもそも本にして人様にお伝えするのもどうかしてるんですけど(笑)、おもしろいなんて言われると自分では意外なんです。今田さんはおもしろいと思ったもの、ありました?
今田:全部クスッとしますよね。キャラクターの絆創膏とかいいなと思いました。きれいに颯爽と歩いている人が靴擦れにそういう絆創膏を貼っていたらかわいらしいんじゃないかとか、そういうシーンが思い起こされるようなものがいくつか載っていて。一般的なきれいとかかわいいじゃなくて、言い表せないけどグッとくる瞬間がおとずれるきっかけになるようなものを集めていらっしゃるのかなと思って。
大宮:なるほどね。普通の絆創膏じゃないとみんな「なんでだろう?」って思いますよね。でも結構好きなの。指先にキャラクターがいると楽しいんですよね。だから指先をけがするとちょっと「やったー、貼れる」みたいな気持ちになる。
大宮さんを突き動かす「信頼」とは?
今田:さきほどの椅子のお話もそうですけど、自分の気分が少し上がったりウキウキするものを近くに置いておきたいということに、すごく意識的なのかなと思いました。でもこの本には多種多様なものが載っているから、大宮さんは興味の向く方向が多いのかなと思ったのですが、全てに共通してグッとくるポイントってなんなのでしょうか?
大宮:おもしろさですかね。最近持ち歩ける体重計を買ったんですよ。家では体重計に毎日乗っているんですけど、海外に行って空白の何日間ができると、帰国した時に「まじか!?」ってなるから持ち歩けるものがほしくて。調べたら437gのものがあったので、それをリュックに入れてパリに行きました。カラーバリエーションがいっぱいあって、発色のいいピンクを選んだんですけど、それも「ピンクの体重計がかばんに入ってたらおもしろいな!」みたいな。
今田:パリまで持っていって乗るまでのストーリーもおもしろいと思ったんですか?
大宮:いやいや、私そんなおもしろ人間じゃないですよ!(笑) ただ、色を迷った時にピンクのほうが楽しい気持ちになるなって。私、日々そんな楽しくないし、仕事もそんなに好きじゃないんです。自分がしてきたことも「キャリア」とは思っていないんですけれど、その話がひょんなことで誰かのヒントになったらいいなというささやかな夢はあります。だから別に高い志があるわけでも、「その過程がおもしろいだろう」みたいな計算があるわけでもないんですよ。ただ、ピンクの体重計っていいなって。それだけです。
今田:そこには大宮さんの洞察力が生きているんでしょうね。人が気にかけないようなことをフィーチャーできているというか。
大宮:いやいやいや。私がおもしろいと思っても、響かない人には響かないんですから(笑)でも別にいいんです。響く人には響くということで。このカエルのおもちゃも「わーい!」と思って買ったんだけど、喜んでくれた人がいた。響いたんですね。普通に跳ねさせるんじゃなくて、ゆっくりやると、たまにふんばって仁王立ちする時があるんですよ。それを「できた、できた!」って喜ぶっていう。
今田:さきほど「仕事は好きじゃない」とおっしゃっていましたけど、ふだんのお仕事でも、こういう「わーい!」を大事にされているんですか? それこそ仕事を通して出会いもあるわけですし。
大宮:仕事で「わーい!」はないですね。温泉でぼんやり「気持ちいいなあ」ってほうがわーい、っていうか(笑)。
今田:大宮さんはものすごくいろんな分野で活躍されているし意外でした。お仕事について、偶然的にここまでたどり着いているということをいろんなところでお話しされていますが、僕は、偶然なんかじゃなく大宮さんが引き寄せていると思っていて。誰にでも訪れるチャンスを、引き受けられる力があるかどうかがすごく大きい気がするんです。大宮さんにはその力があるように感じて。
大宮:ええっ?!そうかな……私になにかを依頼してくれる人には、私を信頼して見えているものがあるわけだから、それを自分がおもしろがって、敬意を払って、信じられるか、というだけですよね。もともと「挑戦したい」みたいな気持ちはなかったけど、声をかけてもらえると、「そんなふうに言ってもらえるならやってみようかな」という気持ちになるんです。「なんでこの仕事がきたんだろう?」とか考えながらも、なにか意味があるんだろうと思って。やっていくうちに「あの時にあれをやっていたのは、こういうことだったのかな」って。
大宮さんが考える自由と幸せのかたち
今田:あとで振り返ったときにそういうふうに思うことが多いんですね。『思いを伝えること』も拝読したのですが、大宮さんが書かれるものってすごくメッセージ性が強いと思っていて。先ほどご自分のお話が「ひょんなことで誰かのヒントになったらいい」とおっしゃっていましたが、そういったことはつねに考えていますか?
大宮:いやいや、私はそんなに強くなにかこれを伝えたいっていうタイプではなくて。『思いを伝えること』は、2012年にやった個展を本にしたものなんですけど、その個展では、コミュニケーションにおけるいくつかのインスタレーションを作ったんです。そのひとつに、大きなドアが立っている作品があって。人生には大きなドアが立ちはだかって、「自分には開けられない」「これ以上進めないんじゃないか」って思ってしまうことがありますけど、人はみんないろんな鍵を持って生まれてくると私は仮定していて。
でも、大人になればなるほど、その「鍵のありか」がわからなくなってしまうんですよ。つまり直感ですよね。ピンときたことに従うのではなくて、いろいろ考えてしまうから直感が鈍ってくる。だから、「もう乗り越えられない」と思った時に「いやいや、自分はきっとこのドアを開ける鍵を持っている」っていうことを思い出そうっていうインスタレーションなんです。だから、鍵をいっぱい散らして、来場者にひとつ直感で鍵を選んでもらってドアを開けてみてもらうという内容で。自分で鍵を選んで、怖いけど鍵穴に差して回した時に、バンッてドアが開く感覚を体感して、なにかの突破口にしてもらえたらなって。立ちはだかるドアを私が体験していなかったらそれを作ろうとは思わなかっただろうし、メッセージというよりは体験談を伝えている感じです。
今田:なるほど。全員がちゃんと理解して展示を見たり、大宮さんの本を読んだら、自分には能力があることを思い出して「できる! 頑張ってみよう」と思える人って多いんじゃないかと思うんです。今、立ちはだかるドアを目の前にした時に、自分で開けることができない人が多い気がしていて、それができる人が増えれば、僕らが今目指している自己実現とか、自分が好きなことができる環境に身を置ける人が増えていくんじゃないかなと感じたところがあって。
大宮:でも私、自己実現はできなくてもいいと思っているんですよ。別に自己実現したい人ばかりじゃないと思っていて。そもそも自己があるとか、夢があるって人ばかりじゃないし、「自己実現をしたほうがいい」とか「みんなドア開けられるよ!」みたいなことを苦痛に感じる人もいる。生を受けてこの世にやってきて、自由に遊んだり、楽しむ、それだけでいいと思うんです。
たとえば、お花屋さんに行きたいなって思って足を運んで、ヒマワリほしいなって思いついて買うとかね。些細だけどそれも自己実現ですよね。ただ、その人のその日のその時間が幸せだったら、それはすごく尊いですよね。「この時間にここでヒマワリ1本買えてハッピーだな」って人ってすごく輝いていると思うんです。あ、私は確実にそのタイプです。(笑)
今田:たしかにそうですね。でも、やっぱり自分がやりたいことができなかったり、あるいは「これをやりなさい、やらなきゃだめだ」と強制されている時が続くのって不幸なような気がしていて。
大宮:今田さんにとっての不幸がそういうことであって、それを同じように他の人も不幸って感じるかって言ったらそうじゃないかもしれませんよ。指示されてほしくて、自由でいいよっていうほうが苦しい人もいますからね。
今田:そうですね……たしかに。
大宮:だから自分がすべてだって思わないほうが良くて、自分が基準じゃなくて、いろんな人がいるということがおもしろい。いろんなことが起こって変化する毎日が楽しいという人もいれば、それが嫌で同じことが繰り返されてほしいという人もいますよね。変化が怖いから、明日が来るのが怖くて仕方ないという人もいますし。だから、不幸って、その人が決めることだし、逆に決まらないかもしれない。
「あの人は不幸だ」と側から見て思っても、本人はその時は不幸だと感じたかもしれないけど、後々いろんな気づきがあって、そのおかげで今とても幸せだと思っているかもしれない。なにが不幸かなにが幸せかも自分で決められるんです。それが自由だよね。それだから人生って楽しいんだと思います。
Q.あなたの仕事をする上でお気に入りの場所 or ものはなんですか?
A.自宅のテーブルと椅子。
お花が好きなので、好きな花を買ってテーブルに置いているのだそう。「たとえばバラでもいろんな種類があるから、そのときの気分でいろんな色を買って、好きな花器に挿しています」と大宮さん。「その一瞬、帰って花がある、ということだけで嬉しいし、癒されます」。
大宮エリーの なんでコレ買ったぁ?!
旅先のお店で欲しくなってしまった、絶対に使わない小物たち。
つい忘れてしまって何個も買ってしまう羽目になった携帯の充電器。
イベントで見て衝動買いしてしまった家電。
火を吐く修道女とか、ケースからグーパンチが飛び出すガムとか、ちょっとしたおもちゃ。
あの日、しなかった花火。
……つい買ってしまったトホホなあれこれ。
誰もが思い当たる「なんでコレ買ったぁ!?」にまつわる軽妙なエッセイ集です!
「日経MJ(流通新聞)」+Web連載に加筆・修正しました。
「でも、紙面でやっていた頃、やりながらも、そもそもこれ、面白いのかな?
と半信半疑、自信がなかったのであるが、
え? こんなところで?という場所にて
『日経MJ読んでます! 』
『なんでコレ買った?! ってやつ面白いですね! 』
『本にならないんですか?』と聞かれ、
耳を疑った。こんなところで、それを褒められる?と。
具体的に言うと、愛媛のおしゃれカフェの店長さんとか、
鹿児島の土産物売り場など。
どうして日経MJを?『なんか面白いから』。
なので私もなんとなく、なんか面白いから、
の精神でやっていこうと思う。」──Web連載より
定価:本体1,300円+税
発売⽇:2019年01⽉29⽇
ISBN:978-4-532-17648-8
並製/四六判/224ページ
1.
Ⅰ ゆるく実⽤品なカテゴリー
Ⅱ ざっくりファッションカテゴリー
Ⅲ ⾷品カテゴリー
Ⅳ ざっくり家電カテゴリー
Ⅴ 料理道具カテゴリー
Ⅵ じぶん的には⾵流カテゴリー
Ⅶ 玩具カテゴリー
Ⅷ スピリチュアルな?カテゴリー